フルマラソンの世界記録と日本記録

フルマラソンの世界記録はケニアのエリウド・キプチョゲ選手がベルリンマラソンで記録した2時間01分39秒。昨年樹立されたばかりですので、なんとなくでも記憶しているランナーさんは多いかと思います。

これに対する日本記録は、大迫傑選手がシカゴマラソンで樹立した2時間05分50秒。世界が近いようで遠いですよね。こういう記録というのは意識してみるとかなり興味深いものがあります。

今日はいつもと雰囲気を変えて、この世界記録と日本記録をテーマにコラムを書いていこうかと思います。

目次

世界記録はベルリンマラソンで生まれる

これはもう周知の事実かと思いますが、世界で最も記録が生まれやすい大会はベルリンマラソンです。フルマラソンの記録TOP10のうち、8つがベルリンマラソンで生まれています。その他はドバイとロンドンが1つずつ。

ベルリンマラソンは高低差が20mしかありません。フラットで記録が出やすいとされている東京マラソンでも42mありますので、いかに高低差が少ないかが分かるかと思います。

ただ、東京マラソンは最も高い場所がスタートですので、実は世界記録が生まれてもおかしくない大会でもあります。

女子の日本記録である野口みずきさんの、2時間19分12秒もベルリンマラソンで誕生しています。実はこの記録は現アジア記録でもあります。2005年の記録で、10年以上経過した今も抜かれていないというのは驚きです。

ちなみに女子の世界記録は女王ポーラ・ラドクリフさんが2003年に記録した2時間15分25秒です。この記録はしばらく抜かれることはなさそうです。2000年前後というのは女子マラソンが注目された時期でもあり、もっとも華やかだった時代でもあります。

アジアで圧倒的な強さを誇る日本勢

日本のマラソンは世界から遅れているというイメージがあるかもしれませんが、アジアの中で見ると圧倒的な強さがあります。アジア歴代10傑のうち日本人が占める割合はどれくらいあると思いますか?

なんと男女ともに10人中7人が日本人ランナーです。

アジア歴代10傑男子

順位タイム氏名国籍
12時間04分43秒エルハサン・エルアバシバーレーン
22時間05分50秒大迫傑日本
32時間06分11秒設楽悠太日本
42時間06分16秒高岡寿成日本
52時間06分43秒シュミ・デチャサバーレーン
62時間06分51秒藤田敦史日本
72時間06分54秒井上大仁日本
82時間06分57秒犬伏孝行日本
92時間07分13秒佐藤敦之日本
102時間07分19秒ムバラク・ハッサン・シャミカタール

これを見れば、日本人が決してレベルが低いわけではないことが分かってもらえるかと思います。アフリカ勢が強すぎるというのが実際のところ。

ジュニアの世界記録はエチオピアのツェガエ・メコネン・アセファ選手の2時間4分32秒はアジア記録よりも速く、そのアセファ選手は世界の10傑にも入っていません。

アジア歴代10傑女子

順位タイム氏名国籍
12時間19分12秒野口みずき日本
22時間19分39秒孫英傑中国
32時間19分41秒渋井陽子日本
42時間19分46秒高橋尚子日本
52時間19分51秒周春秀中国
62時間21分17秒ユニス・キルワバーレーン
72時間21分36秒安藤友香日本
82時間21分45秒千葉真子日本
92時間21分51秒坂本直子日本
102時間22分12秒山口衛里日本

アジア歴代10傑には懐かしい顔ぶれが並んでいます。この記録のうち2010年以降に記録されたのは、2017年の名古屋ウィメンズマラソンで2時間21分台を記録したバーレーンのユニス・キルワ選手と日本の安藤友香選手だけです。

世界記録よりも偉大な世界最遅記録はあの日本人

フルマラソンの世界記録は2時間を切ろうとしていますが、それとは真逆の「最も遅いゴール」というものがあります。54年8ヶ月6日5時間32分20秒3を記録したのは、NHK大河ドラマになっている金栗四三さんです。

1912年ストックホルムオリンピックのマラソンで、熱中症になった金栗四三さんは、農家の方に保護されてレースから離脱。そのまま棄権の申告をしないまま帰国をしたため、記録としては競技が続いている状態にありました。

ところが1967年にストックホルムでオリンピック55周年記念式典を開催するにあたり、金栗四三さんがまだ棄権もしておらず、完走もしていない状態にあることが発見されます。そして、記念式典で金栗四三さんが見事にゴールを果たします。

そして、これが公式記録として残っているため、54年8ヶ月6日5時間32分20秒3が世界最遅記録となっています。

金栗四三さんが日本で記録した2時間32分45秒は当時の世界記録でしたので、世界でただ1人、世界最高記録と世界最遅記録を手にしたランナーということになります。今の時代では絶対にありえませんので、この記録は永遠に残ることでしょう。

マラソン王国日本は復活するのか

日本はマラソン王国だったという印象が強いかもしれませんが、実は近代マラソンで世界記録を記録しているのは、1935年の鈴木房重さん、池中康雄さん、孫基禎さん、1965年の重松森雄さんだけです。

瀬古さんや宗兄弟、中山竹通さんも世界記録とは無縁のまま引退しています。いずれも当時の世界トップクラスにありましたが、当時はタイムを出すことよりも勝つことが重視されていた時代でした。

レースには駆け引きがあり、勝つためには序盤のペースを大幅に落とすようなこともありました。ところが現代は「誰よりも速く走りきればいい」というスタイルが主流で、そこにナイキのヴェイパーフライが登場したことで、レースに駆け引きがほとんどなくなってしまいました。

こういう状況で、日本選手が世界に勝てるのか。

冷静に考えれば難しいというのが答えです。女子はシンデレラガールが登場することで時代が動く可能性がありますが、男子は世界トップクラスの選手が日本から登場する可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

ではオリンピックや世界選手権で勝てないかというと、そのようなレースにおいてはまだ可能性があります。特にオリンピックは記録ではなく勝つことだけが求められていますので、スタートから駆け引きが行われる可能性もあります。

世界記録には及ばなくても、レースに勝つかどうかはまた別物です。そういう意味では日本開催の2020年は大いに期待できます。

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