大きなマラソン大会では必ずと言っていいほどペースメーカーが付きます。大会によってはペースランナーと呼ぶこともありますが、基本的に役割はどちらも同じです。決められたペースで走り、集団をゴールに導くのが彼らの役割です。
例えば4時間ジャストのペースメーカーの場合、5分35〜40秒/km程度でスタートからゴールまで走りますので、そこについていけばサブ4を達成できるというわけです。でも、現実はそんなに甘くはありません。ペースメーカーについてくことはリスクも伴い、失速にもつながります。
そこで、ここではペースメーカー(ペースランナー)の集団について走るメリットとデメリットについて説明します。
ペースメーカー(ペースランナー)の役割
フルマラソンを2時間ちょっとで走る人たちにもペースメーカーがつきます。最近はゼッケンに「PACE」と書かれているのすぐに見つかるかもしれません。彼らはレースで勝つことを目的としているのでなく、レースを作ることを目的としています。
フルマラソンの場合、タイムを狙うだけでなく「勝つ」ことが目的になることがあります。こういう場合には誰もレースを引っ張ろとしません。先頭に立つと体力の消耗につながるので、みんなが牽制し合ってスローペースの展開になることが多々あります。
そういうレースで先頭に立ってペースが落ちないようにするのが、ペースメーカーのひとつの役割です。彼らはプロとして仕事を請け、報酬も得ています。ただ契約した距離まできたら離脱します。これがプロのペースメーカーの役割のひとつです。
記録を狙うレースでもペースメーカーが先頭に立ってレースを引っ張ります。有力選手はそこに付いてくだけでいいので体力の消耗を防げます。駆け引きもしなくて済むのでペースメーカーがいなくなるまでは楽に走れ、そこから残りの10kmちょっと頑張るだけでいいので好記録が期待できます。
このように、トップレベルのペースメーカーは「途中までレースを作る」のが役割です。
ところが、私たちの走る市民マラソンにおいてペースメーカーは、自己ベスト更新を狙うランナーを最後までサポートします。彼らは基本的に最初から最後までほぼ同じスピードで走ります。サブ3のペースメーカーくらいになると、風向きや傾斜まで頭に入れてペースを変化させますが、それよりも遅い場合には一定のペースを維持します。
いずれにしても理屈の上では、最初から最後までペースメーカーについていけば目標タイムで完走できます。サブ3を達成したければ、サブ3のペースメーカーに最初から最後までついていけばいいわけです。ただ、それを実現できるランナーはほとんどいません。
ペースメーカーに付いていくにはかなりの走力が必要
結論から言えば、サブ3やサブ4のペースメーカーに最初から最後まで付いていこうと思うなら、そもそも余裕を持ってサブ3やサブ4で走れるくらいの走力が求められます。なぜなら、ペースメーカーと一緒に走るのは「人に合わせて走る」ためです。
ランナーには1人ずつ個性があります。上り坂が得意な人もいれば、下り坂が得意な人もいます。自分の得意な場所ではペースが上がり、苦手な場所ではペースが下がります。それがあたり前なのですが、ペースメーカーに付いていくと常に一定のペースで走らなくてはいけなくなります。
自分のリズムを捨てて、ペースメーカーのリズムで走ることになるので思った以上にストレスになりますし、足にも負担がかかってしまいます。だから、そもそもそのペースで余裕を持って走れる走力がないと、ペースメーカーの集団についていくのは困難です。
もっとシンプルに言いましょう。ペースメーカーに最初から最後まで付いていける人は、ペースメーカーなんていなくても目標タイムで完走できます。むしろペースメーカーに付いていくことで、完走タイムが悪くなっていることも考えられます。
とはいえ、ペースメーカーが必要ないわけではありません。きちんとメリットもあるのでその点を見ていきましょう。
ペースメーカーと走るメリット
それではまず、ペースメーカーがマラソン大会にいることで、どのようなメリットがあるのかを解説します。
- 時計でペースを確認する必要がない
- オーバーペースを防ぐことができる
- 風よけになる
- 集団になるので高揚感がある
ペースメーカーにはこのようなメリットがあります。それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
時計でペースを確認する必要がない
ペースメーカーは安定したペースを刻んでくれます。日本人のペースメーカーは驚くほど正確なペースで走ってくれます。いつもGPSランニングウォッチとにらめっこしている人がいますが、ペースメーカーについていけば時計を確認する必要がなくなります。
時計を見なくて済むというのは思った以上に大きなメリットです。単独走の場合、自分のペースが合っているのか、残りの距離をどれくらいのペースでは知らなくてはいけないかなどを自分なりに計算し始めますが、これは脳の疲労を引き起こします。
ペースメーカーに付いていく場合には、何も考えなくていいんです。ペースメーカーに引っ張ってもらいながら、走り終わって何を食べるかを考えていてもいいわけです。脳が疲労しないので、レース後半になってもポジティブな気持ちを維持することもでき、失速を防げます。
オーバーペースを防ぐことができる
ランナーの多くが前半に突っ込んで、後半に失速するという経験をしたかと思います。前半に貯金を作っておきたいという心理から、ついつい前半に飛ばしすぎてしまうランナーがほとんどですが、ペースメーカーについていけばこれを防ぐことができます。
オーバーペースによって体力を必要以上に消耗しないので、後半になって足が棒のようになるなんてことを防げます。前半ツッコミがちなランナーは、我慢する目安としてペースメーカーについていくことは大きなメリットになります。
風よけになる
ペースメーカーの周りにはたくさん人が集まります。この集団のやや後方に位置取りすると風の抵抗を受けにくくなります。向かい風が強い場合にはその風が直撃するのを避けられるので、体力の消耗を防ぐことができます。
トップランナーが前に出たがらないのも、風の影響を少しでも減らしたいためです。前に出るというのは向かい風の直撃を受けるので、どうしても必要以上に力を入れなくてはいけなくなります。ペースメーカー集団であれば、そのロスを最小限に抑えられるので、悪天候でもいいタイムで走れます。
集団になるので高揚感がある
ペースメーカーはみんなが頼るので集団になります。人間というのは面白いもので、単独では力を出せない人でも集団になると力を発揮できることがよくあります。マラソンの集団も同じで、高揚感があるので単独走よりも楽に走ることができます。
集団の流れに合わせるだけでペースを維持できますので、心理的な消耗を防ぐこともできます。レース終盤になるとお互いの存在が支えになることもあります。集団が大きければ大きいほど食らいついていこうと思えるので、最後の踏ん張りが効きます。
ペースメーカーと走るデメリット
ペースメーカーが良い記録で走るためのサポートにはなりますが、メリットだけでなく下記のようなデメリットもあります。
- 集団になるので接触しやすい
- エイドで補給するときに混雑する
- 付いていけなくなったときの心理的ショックが大きい
- オーバーペースになる
こちらもデメリットをそれぞれ解説していきます。
集団になるので接触しやすい
ペースメーカーに付いていこうとするランナーが多いので、そこはかなり大きな集団になります。スタート直後の渋滞がずっと続くようなものですので、伸び伸びと走ることができません。どうしても走りが窮屈になり、人によっては走りにブレーキをかけることになります。
接触するリスクもあります。自分がぶつかられるのもストレスになりますし、ぶつからないように気を使うのもストレスになります。これを42kmも続けていくと、どんどんイライラが溜まっていき、最終的には自分をコントロールしきれなくなることもあります。
エイドで補給するときに混雑する
こちらも集団ならではのデメリットですが、エイドでは大人数で給水給食をするので、かなり混雑してロスになります。人を避けるようにして補給しなくてはいけなくなるので、無駄な力を使うことにもなります。前の人がいきなり止まってしまうことだってあります。
ペースメーカーに付いていき、集団で走るとそういった思わぬハプニングに巻き込まれてしまうリスクが高くなります。
付いていけなくなったときの心理的ショックが大きい
ペースメーカーに最初から付いていくと、そこから離れたときにレースを諦めてしまう人がほとんどです。実際にはそこで耐えていると、また走りが戻ってくることもあるのですが、ペースメーカーから遅れたことのショックが大きすぎて、ベストを尽くすことすら諦めてしまいます。
マラソンとはタイムに関係なく、それぞれが最後までベストを尽くすことが求められるスポーツです。ペースメーカーに付いていけなくなって歩いてしまう人も大勢いますが、本当はそこでいかにして踏ん張れるかを楽しむ競技でもあります。その最後の踏ん張りができなくなる。これがペースメーカーについていくデメリットのひとつになります。
オーバーペースになる
メリットでオーバーペースを防げるとお伝えしましたが、人によってはオーバーペースになることもあります。ペースメーカーというのは絶対に決められた時間でゴールするという使命があるので、前半はやや速めのペースで走ることがよくあります。
ギリギリサブ4を狙えるかどうかというランナーの場合、ペースメーカーに付いていくことでサブ4ペースよりもやや速いペースになるので、前半でオーバーペースになって失速するということがあります。
ペースメーカーは目安として集団から少し離れて走る
ペースメーカー(ペースランナー)はとても助かる存在です。上手に利用すれば目標タイム以内でのゴールをサポートしてくれます。でも、最初から最後までべったりと付いて走るというのはあまり現実的ではありません。
ではどうすればいいか?
ペースメーカーが視界に入る場所、35kmくらいまでは50〜100mくらい後ろ側を走るのがおすすめです。これくらいの距離をとれば接触リスクも下がりますし、自分のリズムで走ることもできます。得意な場所でスピードを上げられ、苦手なところで無理にペースを上げずに済みます。
風よけにできる人もそれなりにいるので、向かい風が直撃するのを避けることもできます。そして、視界には常にペースメーカーがいるので時計を見る必要もありません。どこが走りやすいかは人によって違いますので、最初は自分の好きな場所を探してみましょう。
ただし、ペースメーカーを利用するのはどうしても超えたい壁があるときだけにしましょう。レースのペースメイクも含めてマラソンです。自分でレースプランと立てて、それをいかにして実行するかがマラソンですので、誰かに引っ張ってもらうというのはマラソンの本質からは少し離れます。
最初に壁を超えるときに活用するのはいいのですが、1度壁を超えたなら次は自分の力で乗り越えていきましょう。