マスクを付けてのランニングに関して、賛否が分かれている状態にありますが、マスクを着用することがランニングにどのような影響を与えるのかを数値として示したものがあまりありませんでした。このため「マスクランは危ない」と言われても、あまりピンと来ない人がほとんどなのではないでしょうか。
具体的にどれくらいのリスクがあるのか、人気シューズブランドのアルトラ(ALTRA)が、ランニング中級者から上級者10名を対象に実証テストを行っています。そのテスト結果を踏まえて、私たちランナーがどう走ればいいのかを提案していきたいと思います。
マスクを着用すると心配への負荷が上がる
ほとんどのランナーがすでに経験しているかと思いますが、マスクを着用してのランニングは苦しいものです。アルトラの実証テストにおいても、被験者の10人中10人が、「マスク着用時の方が身体的負担が大きい」としています。
圧迫感があり、心理的に呼吸をしにくくなるだけでなく、マスクが湿ってしまうため十分な量の空気を吸い込むことができていないことが考えられます。ただ、それはあくまでも個人的な感覚の話。大事なのは本当に十分な空気を吸えているかどうかです。
アルトラの実証テストでは自社の呼吸ガス分析装置を用いて、トレッドミルで徐々に運動強度を上げ、ランナー10人の「1分換気量(1分あたりの呼吸で肺を出入りする空気量)」と「酸素摂取量」を測定しています。その結果が上のグラフになります。
- 高負荷のランニングにおいて酸素摂取量が13%低下する
- 高負荷のランニングにおいて1分換気量が24%低下する
マスクを着用することで、最大酸素摂取量も1分換気量も有意に低下することがわかりました。対象としたのが中級者から上級者ということですので、初心者や初級者の場合にはまた数値が変わってくる可能性があります。また被験者も10人と少ないため、この数値が絶対というわけではありません。
着目すべきは酸素摂取量が13%も下がっているということで、明らかに十分な酸素が肺に送り込まれていません。この状態で長時間走り続けることは困難で、ポイント練習をしたとしても強度を上げることができないので、トレーニング効果を得られないことになります。
無理して走れないことはないのですが、限界を超えた走りをするためフォームも崩れやすくケガのリスクが高まります。
負荷によってマスクを着用するかどうかを決める
今回の実証テストでわかったことは「高負荷のランニングにおいてはマスク着用はNG」ということです。期待するトレーニング効果を得られないだけでなく、ケガのリスク、熱中症のリスクも高くなります。
低酸素トレーニングの効果が得られると思うかもしれませんが、低酸素トレーニングはもっと緻密な計算に基づいて低酸素環境を作り出しています。マスクを着用して低酸素な状態になったからといって、高地トレーニングのような効果が得られるわけではありません。
ではマスクなしでのランニングをおすすめするかというと、必ずしもそういうわけではありません。河川敷や公園、町中のランニングにおいては、エチケットとしてのマスクが着用が好ましい環境というものがあります。マスクを着用してないことで、暴言を吐かれたという話もよく耳にします。
アルトラが次のような提案をしています。
- マスク着用が好ましい環境では低~中強度(80%VO2max以下)のゆったりとしたペース
- 高強度のランニング(90%~100%VO2max)を実施する場合は、人混みを避けた上で、マスクを着用しない
RUNNING STREET 365としても、このような使い分けが理想だと考えています。人が多くてマスク着用が好ましい環境ではポイント練習を行わず、ジョグだけにして、ポイント練習をするときは周りに人のいない環境でマスクを外して行うようにしましょう。
ランナーでない人を不安にさせない強さと優しさ
ランニングにおけるマスクの着用については、いろいろな専門家やメディアがコメントをしています。それぞれの立場があるため、人によって言っていることが違うのが現状で、なによりも新型コロナウイルスの感染については「まだわからない」ことが多いのが現状です。
本当に何が正しいのかはわかりませんし、マスク着用していないランナーを嫌い人が現実として存在します。だとすれば、心肺機能への負荷がそれほど高くない状況では、マスク着用でのランニングが好ましいかなと考えています。
ランナーはマラソン大会などで道路を専有するなど、ランナーではない人に迷惑をかけていることもあります。こういうときにランナー以外の人を不安にさせると、マラソン大会の開催に否定的な意見を持つ人が増えてしまうというのもあります。
ランナーでない人を不安にさせないために、マスクをすることに科学的根拠がなくても、人が多い場所ではエチケットとして着用を心がける。最近は呼吸をしやすいマスクも増えていますので、それらを活用してみてください。
ただし、ポイント練習のような負荷の高いトレーニングを行う場合には、アルトラの実証テストからもわかりますようにマスクはNGです。人の少ない時間や場所を選んで、マスクを外して行いましょう。夏場は熱中症リスクもありますので、マスクを着用しての高負荷トレーニングは推奨しません。
その場の環境に合わせて柔軟に対応していく。そういう強く優しいランナーを目指しましょう。その考え方にも賛否はあるかと思いますが、RUNNING STREET 365としては、この使い分けを基本スタンスとして情報発信を行っていきます。
アルトラ
公式HP(日本語):https://altrafootwear.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/altrajapan/
Facebook:https://www.facebook.com/altrarunning.jp/