マラソン中の低体温症から身を守ろう【ランナーの自己管理術】

中国のマラソン大会で、20人以上のランナーが低体温症になり亡くなられたというニュースがありました。想定外の悪天候という理由もあり、同じことが日本のレースで起きる確率は低いのですが、低体温症になるリスクはすべてのランナーにあります。

ところが低体温症がどのような条件で発生し、どれだけ危険なのかは意外と知られていません。自分には関係ないことと思っている人もいるかもしれません。そこで、今回は低体温症の危険性や、回避するためにすべきことなど、マラソンと低体温症の関係についてご紹介していきます。

目次

低体温症とは

低体温症は深部体温が35℃以下の状態を言います。深部体温は体温計で計測する温度とは違い、内蔵などの臓器の温度のことで、肝臓は38.5℃、直腸なら38.0℃といったように一般的には38℃以上の体温になっており、これが35℃以下になったら低体温症と呼ばれます。

ここでは難しい説明を省きますが、深部体温は体温調節中枢によって一定に保たれるように私たちの体は作られています。例えば外気が冷たい場合には、自律神経を活性化させて体内の温度を上げます。体を小刻みに震えさせて熱を発生させたり、血管を弛緩させて血流を促し、熱を体の外に逃がしたりするわけです。

私たちの体内では、このような微調整が常に行われています。ところが体が作り出す熱には限度があり、外気が極端に低い場合などは、熱の生成が間に合わず外気によって体が冷えて、深部体温が35℃以下になって下記のような低体温症の症状が発生します。

  • 運動失調
  • 筋力低下
  • 意識・判断力の低下
  • 脈拍の低下
  • 体がふるえる(シバリング)

これで体温が上がれば症状が消えますが、改善されない場合には、さらに体温が失われていきます。35℃以下でも32℃以上あるなら軽度で、まだリカバリーが効きますが、それよりも体温が下がってしまうと、医学的な治療が必要になり、場合によっては心臓が停止する恐れもあります。

軽度:32℃から35℃
中等度:28℃から32℃
重度:28℃未満

ランニングをしているのに低体温症になる理由

通常はランニングをすると体温が上がります。これはほぼすべてのランナーが実感していることですよね。運動によりエネルギーを消費するので、その過程で体全体が熱を帯びてしまいます。ですので、普通に走っているだけで低体温症になることはまずありません。むしろ汗をかいて体を冷やす必要があります。

ところが、ランニングによる発熱よりも冷やす力のほうが大きい場合、走っているのに体温がどんどんと奪われてしまいます。例えば下記のような条件でランニングを行うと体が強制的に冷やされてしまい、低体温症を引き起こすことがあります。

  • 気温が低い
  • 風が強い
  • 汗や雨で体が濡れている
  • 肌が外気に直接触れている

低体温症になる気象条件は「気温が低く、風が強い」ときです。気温が低いだけで低体温症になることもありますが、単純に気温が低いだけで低体温症になることはあまりありません。きちんと対策をすれば北極や南極でもマラソン大会を走れるわけですから。

ポイントになるのは「汗や雨で体が濡れている」かつ「肌が外気に直接触れている」ことで、この状態で気温が低かったり、冷たい風が吹いたりすると、かなりの確率で発症します。具体的には「気温が低い日のマラソン大会で雨や雪が強く降っているのに半袖・短パンで走る」と低体温症になります。

中国で起きたトラブルもまさにこの状況が該当します。気をつけたいのは気温が低いのは何も冬だけではないということです。トレイルランニングのように山を走る場合には、春や秋でも気温が下がってしまい、その状態で雨が降り、半袖・短パンで走ると体が冷やされて、体温が下がっていきます。

低体温症になったときの対処方法

レース中に体が濡れ、寒くて体が震えたら、そこがレース終了の合図です。これは絶対に守ってください。この段階ならまだ軽度の低体温症ですので、自力で回復させることも可能です。そのために必要なのは、まずレースを降りることです。「回復させて、また走ろう」なんて考えないでください。

  • 雨や風をしのげる場所に移動する
  • 濡れた部分の水分を拭き取る
  • 可能であれば乾いた衣類に着替える
  • 毛布などで体を温める
  • スープや温かいドリンクで体内から温める

レースを降りてすることは、この5点です。まずは雨や風を遠ざけてください。そのうえで濡れた部分の水分を拭き取りましょう。これだけでも体が冷えていく速度を抑えられます。着替えを持っているなら、速やかに着替えて、毛布などで体温を維持しましょう。

このとき温かいドリンクを飲むのも有効ですが、カフェインやアルコールは利尿作用もあり、結果的に体を冷やすこともあります。まずはココアや白湯、生姜湯で温めるようにしましょう。余裕があるなら合わせてミックスナッツやチョコレート、羊羹などのエネルギーになるものも食べておきましょう。

これで改善しない場合には、医療機関で診てもらう必要があります。軽度であればタクシーで、中等度であれば救急車で病院に搬送してもらいましょう。救急車のお世話にならないためにも「震えたら終わり」を心掛けてください。

低体温症にならないためのポイント

低体温症はとても危険ですが、しっかりと準備をしておけば回避できます。むしろ、準備を怠ったからこそ起こる症状だと考えてください。ではどのような準備をしておけばいいのか、具体的な例を見ていきましょう。

  • 気温に適した服装で走る
  • 雨や雪が降るなら雨具を用意する
  • 速乾性のウェアを着用する
  • ウェアはこまめに着脱する
  • 乾いたタオルを用意する
  • トレランはエマージェンシーシートを用意する

まず大事なのが服装です。気温が5℃を切るような環境なのに半袖・短パンで走る人もいますが、サブ3を狙うレベルでないなら無謀です。気温が低い日はせめて長袖シャツを着てください。半袖シャツにウインドブレーカーの組み合わせでもOKです。

雨の予報があるなら防水性のある雨具を着用しましょう。アウトドア用の雨具なら少し走りにくくなる程度で済みます。ウインドブレーカーでは雨に濡れてしまって、それが肌に張り付いて余計に体温を奪うきっかけになります。確実に雨や雪をシャットダウンできるウェアを着ましょう。

そういう意味では、コンプレッションタイツもあまりおすすめではありません。雨が降らないならタイツは寒さ対策に有効ですが、濡れて雨を吸ったら凶器になります。タイツを着用するなというのではなく、タイツを着用するときこそ絶対に雨に濡れない雨具を用意しましょう。

汗で体が冷えることもあるので、アンダーウェアは速乾性の高いものを選んでください。綿製品は絶対にNGです。また、雨具は風通しが悪くウェア内がムレてしまい、汗をかいて低体温症を引き起こす可能性もあるので、着脱して温度調整しやすいウェアがおすすめです。

完全に雨だとわかっているときや、トレランを走るようなときには乾いたタオルもしくは手拭いを用意しておき、こまめに雨や汗を拭き取るのも低体温症対策になります。さらに何があるかわかりませんので、トレランを走る場合には練習中からエマージェンシーシートを持っておきましょう。

まとめ

ランニングにおける低体温症はトップアスリートでも市民ランナーでも起こりうるリスクであり、状況によっては命を失う可能性すらあります。まず低体温症にどのような危険性が潜んでいるのかをきちんと自覚して、それに対する備えをしっかりとしておきましょう。

そして、低体温症の危険性を感じたり、体が震え始めたら躊躇なくリタイアしてください。耐えてなんとかなる問題ではありません。マラソン大会ならすぐに救護所に退避して、体を温めてもらいましょう。震えが止まってもリスタートしようなんて考えず、そのレースは諦めてください。

マラソンで最も重要なことは完走することではなく、「無事自宅に帰る」ことです。無理して完走をした結果、中等度以上の低体温症になって医療機関に運ばれたというのは絶対に避けなくてはいけません。低体温症は準備と決断で防げますので、無理をして周りの人に迷惑をかけないように心掛けてください。

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