
「もっと楽に長く走れるようになりたい」「たくさん練習しているのに記録が伸びない」。そんなランニング初心者の悩みを解決してくれる方法のひとつが心拍トレーニングです。
心拍トレーニングとは、心拍数を基準に運動強度を管理するトレーニング法のことで、自分の心拍ゾーンを知り、それに合わせてランニングすることで、無理なく持久力を高められます。ペースや距離だけを指標にトレーニングするよりも効率的で、ケガや疲労のリスクを減らせるのが大きな魅力です。
この記事では、心拍トレーニングの基礎知識から初心者におすすめの実践方法、注意点までをわかりやすく解説します。今日から取り入れられるコツを知り、無駄のないトレーニングで走力アップを目指しましょう。
心拍トレーニングとは?

初心者ランナーだと、普段のトレーニングの強度を「ペース」や「距離」で決めている方がほとんどかと思います。それもひとつのトレーニング方法ではありますが、たとえば同じ「キロ5分ペース」やでも、その日の気温や自分のコンディションによって体に与える負荷の大きさが変わってきます。
距離も同様で、同じ「10km」という距離でも、昨日と今日では体に与える負荷の大きさが変わります。このため「ペース」や「距離」でトレーニングを管理すると、知らないうちに疲労が溜まってしまいパフォーマンスが下がってしまうなんてことも考えられます。
反対に走力が上がっているのに、いつまでも低い負荷でトレーニングを続けてしまい、成長が頭打ちしてしまうなんてこともあります。
そんな問題を解消できるのが心拍トレーニングです。心拍トレーニングは、走るペースや距離ではなく「心拍数」を基準に運動強度をコントロールします。自分の心拍数を測りながら走ることで、目的に合ったトレーニングを効率的に行うわけです。
たとえば、持久力を高めたい場合は心拍数を「低〜中強度ゾーン」に保つことで、取り込んだ酸素を効率よく使える体づくりができます。一方で「スピードアップを狙うなら高強度ゾーンを活用する」というように、目的ごとに心拍数を使い分けます。
ランニング初心者の場合、ペースだけを意識して走ると、知らず知らずのうちに負荷が高くなりすぎ、疲れやすくなったりケガにつながることがありますが、心拍トレーニングを取り入れれば、無理なく長く走れるフォームやペースを身につけやすくなり、結果として走力アップにつながります。
心拍トレーニングのメリット

心拍トレーニングは、ペースや距離だけに頼った練習とは異なり、自分の体の状態に合わせた負荷管理ができるのが大きな特徴です。特に初心者にとっては、以下のようなメリットがあります。
- 疲れにくい体づくりができる
- 脂肪燃焼効率がアップする
- ケガやオーバートレーニングの防止
- 意味のない「苦しみ」から解放される
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
疲れにくい体づくりができる
心拍数を一定のゾーンに保つことで、有酸素運動の効率が向上します。これにより酸素を使ったエネルギー供給がスムーズになり、長時間走っても疲れにくい体を作ることができます。
脂肪燃焼効率がアップする
心拍数を低〜中強度ゾーンに保つことで、エネルギー源として脂肪が使われやすくなります。このため持久力の向上だけでなく、ダイエット効果も期待できます。体重が落ちればそれだけで走力も上がるため、より速いペースでも無理なく走れるようにもなります。
ケガやオーバートレーニングの防止
距離やペースだけで練習強度を決めると、知らないうちに負荷が高くなりすぎ、ケガや疲労の原因になります。心拍トレーニングなら、心拍数で練習強度を決めるため、その日の自分にとって最適な負荷でトレーニングができるため、過剰な負荷を避けながら安全に練習できるようになります。
意味のない「苦しみ」から解放される
心拍トレーニングは心拍数で負荷を管理するため、自分の意志でその日のトレーニングの強度を決められます。しっかり負荷をかけたいときに「ペース」で管理すると、オーバーペースになってトレーニングが必要以上に苦しくなり、ランニングを楽しめなくなることもあります。
心拍トレーニングなら適切な苦しさで済み、しかも自分の意志で決めているため、走るのが嫌になるようなこともありません。その結果、高いモチベーションを維持してトレーニングを続けられるようにもなります。
最大心拍数と心拍ゾーンの計算方法

心拍トレーニングを行うには、まず自分の最大心拍数を知ることが大切です。最大心拍数は、理論上の限界値であり、これを基準にしてトレーニングの強度(心拍ゾーン)を設定します。
最大心拍数の求め方
最大心拍数を把握するための、最も簡単な計算方法は次の式です。
最大心拍数 = 220 − 年齢
例)30歳の場合
220 − 30 = 190(拍/分)
この数値はあくまで目安で体力や個人差によって変わりますが、ひとつの目安にはなります。より正確に知るには、ランニングテストや心拍計を用いた計測を行ってください。
心拍ゾーンの設定
最大心拍数をもとに、以下のように5つのゾーンに分けます。
ゾーン | 強度 | 最大心拍数の割合 | 目的 |
---|---|---|---|
ゾーン1 | とても軽い | 50〜60% | ウォームアップや回復ジョグ |
ゾーン2 | 軽い | 60〜70% | 脂肪燃焼・持久力アップ |
ゾーン3 | 中強度 | 70〜80% | 有酸素能力向上 |
ゾーン4 | 高強度 | 80〜90% | スピード強化 |
ゾーン5 | 最大 | 90〜100% | 短時間の全力走 |
初心者が意識すべきゾーンは「ゾーン2(最大心拍数の60〜70%)」になります。このペースであれば、呼吸が大きく乱れることもなく、持久力を無理なく高められます。
初心者向け心拍トレーニング方法
心拍トレーニングを始めるには、「正しい手順」と「アイテム」が大切になります。ここでは初心者でもすぐ実践できる方法を紹介します。
STEP1.必要なアイテムをそろえる
心拍数の計測ができないことには心拍トレーニングができませんので、まずは次のアイテムを揃えましょう。
- 心拍測定機能付きのスマートウォッチ
より高い精度で計測したい場合は胸ベルト式心拍計は精度が高くおすすめですが、初心者の場合はスマートウォッチやランニングウォッチで十分です。Apple Watchなど一般的なスマートウォッチで計測可能です。
心拍数を計測できるスマートウォッチを持っていないという方は、ガーミンの「Forerrunner 265」やスントの「SUUNTO RUN」などのスタンダードなランニングウォッチを購入してください。


STEP2.最大心拍数とゾーンを設定
ランニング用のスマートウォッチなら、年齢に合わせて自動的に最大心拍数やゾーンを設定してくれますが、自分で設定しなくてはいけないモデルもあります。基本的には初期設定のままで構いませんが、初期設定の数値が上記とかけ離れていたり、自動設定されない場合には、自分で最大心拍数とゾーンを設定しましょう。
STEP3.ゾーン2を中心に走る
最大心拍数とゾーンを設定したら、ランニングをスタートしましょう。
- 目安:最大心拍数の60〜70%
- 会話できる程度のゆったりしたペース
- 息が乱れず、フォームを維持しやすい強度で30〜60分走る
基本的にはこのゾーンで走るだけでOKですが、ウォームアップとクールダウンはゾーン2よりも低い心拍数で5〜10分程度走るようにしてください。
STEP4.1週間のトレーニングメニューを組む
ゾーン2で安定したランニングができるようになったら、ゾーン3のトレーニングも組み入れた1週間のトレーニングメニューを組みましょう。
週3回ランニングする場合のメニュー例
1回目:ゾーン2の低強度ラン(40分)
2回目:ペース走またはビルドアップ(ゾーン3)
3回目:ゾーン2のジョグまたはロング走
STEP5.記録を振り返る
心拍トレーニングで重要なのは、自分のランニングを振り返る作業になります。走り終えたら心拍データをアプリで確認し、ゾーン内で走れたかチェックしましょう。心拍数が上がりすぎたり、下がりすぎたりしている場合には、その原因を自分で考えて、次のトレーニングで改善するようにしてください。
また、同じ心拍数でもペースに変化が出てきます。基本的には走力アップに沿って、徐々にペースが上がっていきますが、思うようなペースにならないこともあります。そのような場合は疲労が溜まっているなどの「理由」があります。自分なりに理由を考察して、休養を入れるなどの対策を行いましょう。
心拍トレーニングの注意点

心拍トレーニングは効率的な走力アップにつながりますが、やり方を間違えると効果が出にくくなったり、逆に疲労を溜めてしまうこともあります。以下のポイントに注意して取り組みましょう。
- 心拍数の表示を絶対視しない
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首で計測する光学式心拍計は手軽ですが、腕の振りや気温の影響で必ず誤差が発生します。表示されている数値が必ずしも正しいとは限りませんので、明らかに楽なペースなのに、表示がゾーン4やゾーン5になるようでしたら立ち止まって、表示される心拍数を落としてから再スタートしましょう。
- 数値にこだわりすぎない
-
初心者は特に「ゾーンに合わせよう」と意識しすぎるあまり、フォームが崩れたり、走りにくく感じることがあります。心拍数はあくまで目安として使い、自然なフォームで走ることを優先しましょう。
- 徐々に取り入れる
-
いきなりすべてのトレーニングを心拍管理に切り替えると、負荷が下がりすぎて走力が落ちる可能性があります。まずは週1〜2回から取り入れ、ほかの練習と組み合わながら徐々に移行していきましょう。
- 正確な最大心拍数を知る
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「220−年齢」の計算式は目安であり、個人差があります。より高い精度で知りたくなったら、実際に測定できるフィールドテストやジムの計測サービスを活用して、自分の最大心拍数を把握しましょう。

よくある質問Q&A

- 心拍トレーニングは初心者でもすぐ効果が出ますか?
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数回のトレーニングで効果を感じられることはありませんが、2〜3か月続けると初心者でも「同じ心拍数でも速く走れる」ようになります。持久力の向上や疲れにくさを感じられるようになるまで継続してください。
- ペースが遅くなってしまって不安です…
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初心者は心拍数を抑えるとペースがかなり落ちることがありますが、それは自然なことです。低強度での走り込みによって有酸素能力が上がれば、同じ心拍数でもスピードは徐々に向上します。速く走ることだけが走力アップに繋がるわけではありませんので、安心してゆっくり走り続けましょう。
- 心拍数がすぐに高くなってしまいます
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心拍数は暑さや坂道、疲労などにより簡単に上がってしまいます。心拍数がすぐに上がってしまう場合、最初は無理せず、ウォーキングを混ぜてもOK。いずれ安定して低めの心拍で走れるようになりますので、まずは表示されている心拍数に従って、無理ない範囲で走るようにしてください。
- 減量にも効果がありますか?
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ゾーン2(最大心拍数の60〜70%)での低強度ランは脂肪燃焼効率が高いため、減量効果も期待できます。ただし、しっかり痩せたいのであれば、食事管理と合わせて取り組む必要があります。
- 心拍計は必ず必要ですか?
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正確な数値管理をするなら心拍計があると便利ですが、「会話できるくらいのペース」を目安にする感覚的な方法でも取り入れられます。まずはその感覚で始めてみて、もっと効果的にトレーニングしたいと感じるようになってから心拍計を導入するのもおすすめです。
まとめ:心拍トレーニングで効率的に走力アップ
ランニング初心者にとって、心拍トレーニングは効率的に走力を伸ばし、ケガを防ぎながら持久力を高められる方法です。ペースや距離にとらわれず、心拍数を目安に走ることで、自分の体に合った強度で練習ができます。
特にゾーン2を中心とした低強度ランは、基礎的な有酸素能力を向上させ、長時間走っても疲れにくい体を作る効果があります。最初はペースが遅く感じるかもしれませんが、継続することで同じ心拍数でもスピードが上がり、確実に走力が伸びていきます。
「速く走る練習」だけでなく、「心拍数を管理した効率的な練習」を組み合わせることで、ランニングはより楽しく、成果を実感できるものになります。ぜひ心拍計測機能のついたスマートウォッチを手に入れて、あなたのトレーニングに心拍トレーニングを取り入れてみましょう。