日本一早いマラソンレポート「第33回大山登山マラソン」

33回の歴史があり、「厳しいコースが待ち受けているマラソン大会」として全国のランナーに知られている大山登山マラソン。その噂からも出場を見送っているランナーが少なくない大会です。その大山登山マラソンが開催されましたので、そのレポートをお届けします。

大山登山マラソンは神奈川県の伊勢原市という、神奈川県では比較的小さな都市で開催されるマラソン大会です。フルマラソンやハーフマラソン、10kmというはっきりとした距離ではなく、約9kmという距離で競い合います。

なぜ5kmや10kmという決まった距離ではないのか。それは大山登山マラソンが全国でもここにしかない唯一無二の大会だからです。

仮に大山登山マラソンが10kmという距離だったとしても、その10kmは他のどの大会のタイムとは比較しようがありません。大山登山マラソンの完走タイム1時間というのは、他でもない大山登山マラソンの過去のタイムとしか比較できません。

昨年よりもいいタイムで走り抜けたい。

そういう思いを持って全国各地から神奈川県の小さな市に大勢のランナーが集まります。もちろん大山登山マラソンに人が集まるのはそれだけではありません。伊勢原市の議員さんだけでなく、地元にボランティアスタッフもこの日を楽しみにしています。

小田急伊勢原駅を出た瞬間からそれが伝わってきます。改札で待っているボランティアさんは、満面の笑みで会場への誘導を行っています。そこから会場に向かうまでのスタッフさんはみんなこの日を待ちかねていたかのように、最高の笑顔でランナーを迎えてくれます。

この笑顔だけで東京マラソンや大阪マラソンに負けないだけの魅力があります。受付も会場にいるスタッフも、この日を待ちに待ったという気持ちが伝わってきます。1年に1回の大きなお祭り。それが大山登山マラソンなのです。

コースはとにかく上り坂の連続と言うか、常に上り坂が続きます。それも距離とともに勾配が厳しくなります。最初はほぼフラットなコースなのですが、大山に近づくに連れて勾配が厳しくなります。

スタート時には勢い良く走り出したランナーも、5km6kmと進むに連れて、脚を上げることさえ厳しくなります。ところがこの坂を上手に駆けるランナーがいます。それは大山登山マラソンを何度も走り続けている50代60代のランナーです。

彼らは最初から無理に飛ばすことなく、後半の激坂に向けて体力を温存します。ただ温存するだけではタイムは出せません。決して無理に飛ばすことはありませんが、コツコツと自分のペースで走り抜きます。

反対に20代の体力自慢の若者は、後半の山に入ったとことで、足がまったく動かなくなります。

大山登山マラソンは年齢別のウェーブスタートです。最初に50代以上がスタートし、その次に40代、そして30代以下が走ります。それぞれ30分のタイム差がありますが、トップランナーと後方のランナーが少し重なります。

それでも、ゆっくりなランナーは左側、速いランナーは右側と上手に譲り合って無理のない走りをします。実際に走っていると、それがあまりにもスムーズに行われるのですが、それぞれのランナーが限界近くまで追い込んでいる中で、それが行われるのは、決して簡単なことではありません。

ところが、ここでは自然と譲り合いの気持ちを持ってうまく走ることができています。厳しコースゆえに、我先にとならないのが最大の理由だとは思いますが、それでも多くのランナーが後方からの気配を気にして、自分がじゃまにならないようなコース取りをします。

ここでは誰かに勝つことよりも、自分に勝つことが求められます。その自分とは激坂に負けそうになる自分だったり、周りに気をつかえない自分だったり、人それぞれ違います。

ただ、満足する走りをしたいなら、どんな自分であっても、それを乗り越えていく必要があります。くじけそうになる自分にいかにして抗うか。走れば走るほど厳しくなってくる勾配といかに向き合うか。それが大山登山マラソンの醍醐味でもあります。

とはいえ、実際に走ってみると6km以降の急勾配に負けて、歩きだしてしまうランナーは少なくありません。このコースでは1時間以内にゴールすれば「すごい」と言われます。

その1時間以内の完走を目指すには、山道に入る前にいいタイムで入る必要があります。しかも後半になればなるほどスピードは落ちますので、前半に無理をしてしまいます。いかにして自分の限界を見極められるか。それが大山登山マラソンを走りきるために求められます。

頭では分かっていても、伊勢原駅から大山までの沿道の声援を感じると、ついつい頑張りすぎてしまいます。沿道の声援は年々増えている状態で、今年は平昌冬季五輪の影響もあり、応援することの楽しさを知った人たちが「こんなところまで」というような場所でも声を出して応援してくれます。

それに応じて頑張りすぎてしまうと体力が持ちませんが、沿道の声援を力にしなければいいタイムを出すことはできません。

自分をしっかりとコントロールして、最後まで自分のペースを保つこと。言葉にするのは簡単ですが、この大会を走るランナーはその難しさを実感することになります。

ただ、どんな形であっても、ゴールに到達したときの達成感はここでしか味わえないものがあります。1年前よりもタイムが遅くても、今日の自分の限界を出し切ったという喜び。激坂を走りきった自信。そして「もう走らなくてもいい」という安堵感。

大阪マラソンや東京マラソンのような大都市マラソンには、それはそれで魅力がありますが、大山登山マラソンのような小さな街でもこれだけのランナーを魅了することができるというのは、大きな希望でもあります。

大山登山マラソンにはランナーが「また走りたい」と思えるコースだけでなく、最高のホスピタリティがあります。ランナーを大切にするということがどういうことなのか、他の大会の関係者も一度見てもらいたい大会でもあります。

長く続いているということにおごることなく、毎年新しい気持ちでランナーを迎えてくれる大会。

高低差と難コースであることに、参加を躊躇するランナーも多いかと思いますが、そんなことを理由にエントリーを避けるのはとてももったいないことです。もし興味があるのであれば、思い切ってエントリーしてみてください。

ただ、1人で参加するよりもラン仲間と参加すると、その苦しみを共有できますので、仲間との参加がかなりおすすめです。「なんか面白い大会があるらしいよ」そう言って、仲間をそそのかしてぜひ大山登山マラソンを走ってみてください。

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