走る距離はたった400mでも、最も速い選手ですら3分以上かかる。それが「Red Bull 400」という究極の坂道ダッシュレースになります。最大傾斜角37度の大倉山ジャンプ競技場を逆走し、400mで約130mも駆け上がるのですが、目の前に立つとまさに壁。
自分の意志に反して動かない足。もう限界だと思うくらい追い込むのに、走り終えたら「もっとできたはず」という気持ちが湧いてきて、着替え終わるくらいには「来年こそは」となってしまう新感覚逆走レースです。ここではそんな「Red Bull 400 2024」をレポートしていきます。
Red Bull 400 2024はベストコンディションでの開催
「Red Bull 400」の開催地は、札幌を代表する夜景スポットでもある大倉山ジャンプ競技場。開催されたのは2024年5月18日。土曜日開催ということで、6時台の飛行機で東京から駆けつけたというランナーもいるほどコアなファンのいる大会です。
この1週間、札幌の天候は不安定で、天気予報に反して急に雨が降ってくるなど、Red Bull 400の当日にどのような天気になるかやきもきしていましたが、びっくりするような青い空。ジャンプ台の上からは札幌の街がはっきりと見え、遠くにあるエスコンフィールドまで見渡せます。
最高気温は27℃でスタートから徐々に気温が上がっていきますが、激坂とはいえたった400mですので、寒いよりはこれくらい暑いほうがコンディションとしては理想です。ただ、すぐに心拍数が上がってしまうので、レースをできるだけ早めに切り上げる必要はあります。
もっとも良いタイムで走って予選の上位30名に入ると決勝ラウンドが用意されています。もちろん参加者はそこを目指して走るわけですが、レベルはかなり高く、30位に入るためにはそれなりの適性としっかりとしたトレーニングを積む必要があります。
今年のRed Bull 400の参加人数は前日(5月17日)の応募人数として、個人フルディスタンスが男子742名、女子128名。リレー(1チーム4人)は学生67チーム、男子70チーム、オープン70チームで、過去最高規模での開催となっています。
ちなみに会場のいたるところでレッドブルや水が配られており、熱中症対策もしっかりとなされています。救護のスタッフもテキパキと動いているので、いざというときに頼りになります。もっとも頼らずに済むように走るのが理想なのですが、いざ走ってみるとそんなことも言えなくなります。
過去最大規模にキツくて悔しいRed Bull 400
Red Bull 400について簡単に説明しておきましょう。Red Bull 400は大倉山ジャンプ競技場を逆走するレースになります。ジャンプ台は傾斜のついた板で繋いでおり、着地点側からスタート地点に向かって駆け上がります。インターネットでいくつもの写真を見ることができますが、実物は写真の何倍も「壁」に見えます。
このコースを速い人で4分以内、遅い人だと12〜13分くらいかけて上るのですが、ほとんどの参加者は手を斜面について上がっていきます。私も実際にレースに参加しましたが、傾斜がすごすぎて、眼の前の斜面しか見えない状態で上り続けます。
スタートから100メートルは軽い下り坂。そして100メートルから200メートルのかけて傾斜が厳しくなり、200メートル前後のエリアがかなりの勾配になっています。私は初めての参加ということで、特別な準備をせずにスタートラインに立ちましたが、おそらくトレランシューズを履くのが正解なのかもしれません。
実際に参加者の多くがトレランシューズを選んでおり、手にはグローブを着用していました。個人的にはグローブは必要ないと思ったのですが、走り方が間違っていたのかもしれません。1ヒート60名で、15分毎にスタートするスケジュール。第4ヒートでしたが、思ったよりも早く順番が回ってきました。
1週間前にハーフマラソンを走っていたのもあり、抑え気味に入ろうと思ったのですが、それでも早い段階で足が思うように動かなくなります。最大心拍数が179bpmでしたので、心拍数だけはしっかりコントロールできていたはずなのに、足は思うように動かず、這いつくばるように上がるしかありません。
もちろん後ろを振り返る余裕もなく、自分がいまどこを走っているのかすらわかりません。なんとか300m地点まで登りきり、そこからは比較的上りやすいはずなのに、グリコーゲンはとっくに枯渇しており、何度も止まっては進むを繰り返して、なんとかフィニッシュしました。
こんなに苦しかったのは久しぶりです。そして本来ならここで達成感があるはずですが、達成感よりも先に悔しさが湧いてきました。「何もできなかった」というのが正直な感想。ロードを専門に走っているランナーが初見で制することができるほどRed Bull 400は甘くありませんでした。
1人で走るのもいいけどリレーもおすすめ
自分が走り終えてから、ようやく落ち着いて取材開始。冷静に見てみるとさまざまなレベルの参加者がいることに気付きます。普段からトレランで走り込んでいるような人もいれば、私のようにロードを中心に走っていて、激坂に戸惑っている人もいます。
少し気になったのは、練習が足りていないであろう人がわずかながらいたこと。私も実際に走ってみてどれくらい負荷が高いのかを知りましたが、面白そうという理由だけでエントリーしたけど、どれくらい練習すればいいのかわからないまま当日を迎えた人もいたのかもしれません。
これから参加を考えている人にはっきりと言っておきますが、きちんとトレーニングをしてから挑むことをおすすめします。たった400メートルのレースなのに、途中でリタイアした人もいるくらい、難易度が高いレースになります。しっかり走り込みをするか、体重を絞っておく。それくらいの準備をしないと、苦しいだけで終わってしまいます。
ただ、Red Bull 400は必ずしも1人で400メートルを走る必要はありません。リレー部門があり100メートルを4人で繋いでいきます。最初の100メートルは軽い下り坂ですので、普段から走っていない人でもきちんと繋ぐことができます。
そして他の区間は、いずれも厳しい傾斜となっていますが、それぞれの担当は100メートルしかありません。100メートルしかないからこそ、そこで頑張りすぎてしまいますし、何よりも仲間につなぎたいという想いが体に無理をさせてしまうのですが、それでも400メートルを1人で上るよりも負担は小さめです。
それでいて、仲間と苦しみを共有できるのでチームワークは上がりますし、レース後の乾杯が美味しいことは間違いありません。チームでは物足りないと思う人もいるでしょうけど、いきなり400メートルを走るのは不安という場合には、まず仲間を集めて4人で走るというのもおすすめです。
実際に走ってみて「これなら1人でも」となれば、翌年から個人で参加するのもありです。もっとも、100メートルのために遠方から参加するのはもったいないと思うかもしれませんが。その場合には、仲間との札幌旅行のアクティビティとしてRed Bull 400を利用してみてはいかがでしょう。
仲間のために100メートルでオールアウトするというのも、いい思い出になるはずです。もちろん個人で参加するのもいいのですが、普段から一緒に走る仲間がいるなら、最初から選択肢を個人に絞るのではなく、リレー部門も視野に入れて検討してみてください・
まだ正解がないからハマっていく
どんな形で参加しても、走り終えたランナーの胸には「もっとできたはず」という悔しさの種が植え付けられる。きっと優勝者であってもそれは同じで、どう走るのが正解なのかその答えがない大会だから、答えを求めて何度も挑戦したくなります。
もちろんジャンプ競技場を駆け上がるわけですから、リスクがまったくないわけではありません。過去には雨が降ってかなり滑りやすくなったこともあったようで、そのようなことが起きる可能性だってありますし、そうでなくても負荷をかけすぎて、途中で動けなくなることだってありえます。
そういうリスクを完全に取り除きたいと思うのであれば、きっとRed Bull 400ではなく、公園のランニングコースをゆっくりのペースで走るという選択肢があります。Red Bull 400に集まってくる人の多くが「リスクがあるからこそ挑戦だ」と思える人たちなのでしょう。
それくらいの挑戦をしていることが日々の生活の中での自信になり、この苦しさを知っているから「もっと成長したい」という向上心を持ち続けることができる。そして、過去の自分に勝つためにまたスタートラインに立つことになるわけです。
そういうレースをいくつか持つことは、間違いなく人生を豊かにしてくれます。もちろんRed Bull 400でなくても構いません。他にも短時間でオールアウトできるタイプの競技が増えており、選択肢はいくつもあります。でもRed Bull 400だけの魅力もあり、常に上を向いていたい人にはハマるはずです。
最近は札幌の宿泊料金が高騰化しており、札幌に2泊するのは大変と思うかもしれませんが、新千歳空港ならLCCもありますし、何よりもGW明けのこのタイミングはオフシーズンで宿泊料金も比較的リーズナブルです。春の空気が心地いい季節ですので、来年はRed Bull 400と札幌観光を組み合わせてみてはいかがでしょう。
Red Bull 400:https://www.redbull.com/jp-ja/events/red-bull-400