「ランニングは老化を進める」というのを、耳にしたことのあるランナーも多いかもしれません。健康のために走っているつもりなのに、老化が進むというのは聞き捨てならないと思いながらも、真相が分からないままにしている人もいるかと思います。
そこで、ここでは日々のランニングやマラソン大会出場で、本当に老化が促進されるのかというテーマでお話しようかと思います。
ランニングで老化が進むのは事実
結論からいえば、ランニングはほとんどのケースで老化を進めてしまいます。ただ、この話をするには「老化」についての定義について説明しておく必要があります。少し難しい話ですが、しっかりついてきてください。
老化というと、老眼や認知症などをイメージするかもしれませんが、根本的なところでいえば、「活性酸素によって体に錆びが発生する」ことが、その原因の1つと考えられています。
活性酸素とは、他の物質を酸化させやすい酸素のことで、体内に入ってきたウイルスを撃退する役割を持っています。ただし、活性酸素が増えると、体内で遺伝子や細胞も壊してしまいます。
これでは困るということで、人間の体には活性酸素を無害化するために抗酸化酵素を作り出す機能も備わっています。若いうちはこの機能がきちんと働き、活性酸素の量を適正にコントロールしますが、歳をとってくると抗酸化酵素をうまく作れなくなります。
その結果、活性酸素により細胞が壊されていき、体に老化現象を起こします。
問題なのは長時間の有酸素運動が、活性酸素を発生させてしまうという点にあります。活性酸素が増えても若いうちは問題ありませんが、40代50代になってくると、抗酸化酵素が足りなくなり老化するというわけです。
このため、ランニングで老化が進むというのは事実であり、ランナーがきちんと向き合わなくてはいけない話でもあります。
抗酸化物質を摂取すれば老化を遅らせることができる
抗酸化酵素が足りなくて、体内の活性酸素が優位になるから老化が促進されます。人間の体がそう作られている以上、老化は避けられないように思えます。実際に古今東西、不老不死を手に入れた人は1人もいません。
ただし、抗酸化酵素以外にも抗酸化物質を無害化できる物があります。それが抗酸化物質と呼ばれるもので、抗酸化物質は活性酸素と相性がいいので、体内にいる活性酸素と次々に結びついてくれます。
活性酸素が細胞に悪さをするまえに、捕まえてくれるのが抗酸化物質だと考えてください。この抗酸化物質は食べ物から得ることができます。代表的な抗酸化物質としては、ワインなどに含まれるポリフェノールなどがあります。
アントシアニン | 赤ワイン・ブルーベリー・ブドウ |
カテキン | 緑茶 |
βカロチン | にんじん、かぼちゃ |
リコピン | トマト・スイカ |
フラボノイド | 豆・タマネギ・シソ・緑茶 |
セサミノール | ごま |
含硫化合物 | ニンニク・キャベツ |
アスタキサンチン | 鮭・エビ・カニ |
カカオポリフェノール | ココア・チョコレート |
代表的な抗酸化物質を挙げてみました。これらの物質が体内に取り込まれていれば、活性酸素が増えたときに無害化してくれるので、老化を遅らせることができるとされています。
日本を代表するトレイルランナーの鏑木毅さんが、アスタキサンチンの多く含まれるアスタビータを常用しているのは有名な話です。
活性酸素が発生しなくても老化は進む
抗酸化物質が多く含まれた食材を選べば、活性酸素を無害化できるので、老化しないと思う人もいるかもしれませんが、残念ながら仮に活性酸素が発生しなかったとしても、体の老化は進んでいきます。
例えば老化の原因のひとつに「糖化」があります。体内に余計な糖があると、タンパク質と結びついてタンパク質を劣化させていきます。肌の弾力がなくなるのは、この糖化によるものです。
この糖化には糖質だけでなく、アルコールや脂質も影響します。糖化を防ぎたければ、炭水化物も脂質もアルコールも避けなくてはいけません。アルコールはともかく、炭水化物や脂質は体に必要な栄養素ですので、摂らないというのは無理があります。
100歩譲ってそれらの摂取を必要最低限に絞ったとしましょう。でも、老化は遺伝子によっても進んでしまいます。諸説ありますが、遺伝子には最初から老化することがプログラムされているとのこと。
何を言いたいかというと、老化が促進されるからといってランニングを止めたところで、老化を防げるわけではないということです。活性酸素があろうがなかろうが、人間は全員が老化していきます。
ただ、抗酸化物質によってほんの少しだけ老化を遅らせることはできます。
ストレスも活性酸素を作り出す
長時間のランニングが活性酸素を生み出すのは間違いありませんが、ランニングにはストレス解消の効果もあります。実は、ストレスも活性酸素の原因になります。ランニングはこのストレスによる活性酸素の増加を抑制しています。
日々の生活の中でまったくストレスがないというなら、ランニングを止めることで活性酸素の発生を抑えられますが、ストレスを感じながら日々過ごしているなら、走るのを止めれば活性酸素が増えていきます。
このため、体にとってベストなのは「適度な運動」をすることとされていますが、「もっと走りたい」という気持ちを抑制すれば、当然ストレスになるわけですので、もう八方塞がりなわけです。
生活習慣や食生活を徹底して見直せば、少しは老化を防げる可能性はあります。ストレスのない生活を手に入れるというのもいいかもしれません。でも、どう考えてもそれは現実的ではありません。
山奥で仙人のように暮らすなら成り立つかもしれませんが、現代の日本でそういう生き方はまず無理でしょう。逆に、そこまでして老化を防ぐ意味がどこにあるというのでしょう。
老いを受け入れて走ることを楽しめばいい
「ランニングは老化を進めるからやらない」という人の考え方を否定するつもりはありませんが、どちらにしてもいずれ老いはやってきます。それが少し早くなるかどうかの違いでしかありません。
長く健康的に生きたいから、ランニングをしないというのもひとつの選択肢ですが、人間はいつ死ぬかわからないのだから、後悔のないようにやりたいことをやるというのも選択肢のひとつです。
走ることが楽しいのであれば、老化することなんて気にせずに走ってしまえばいいんです。活性酸素が増える分には抗酸化物質である程度は防げますし、楽しく走れば精神的に若々しくいられます。
ランニングは充実した時間を与えてくれます。素敵な出会いがそこに待っていることもあります。他のランナーの存在が刺激になることもあります。
活性酸素が増えるという一面だけを見て「ランニングは良くない」という人がいますが、それは重箱の隅をつつくような話です。確かに老化は促進されるかもしれませんが、ランニングはそれだけではありません。
だから周りの声は気にせずに、これからも楽しく走り続けていきましょうというお話でした。
ただ、日焼け対策をしたり、休養のためにきちんと睡眠時間を確保したりと、体のケアはしっかりとしてくださいね。長く走り続けるためにできることには、きちんと取り組んでいきましょう。