大迫選手が著書の「走って、悩んで、見つけたこと。」の中で、食事について鉄分を意識しているというニュアンスのことを述べていました。栄養学や生理学の知識があれば「やっぱりそうか」となるかもしれませんが、一般のランナーは読み飛ばしているかもしれません。
鉄分はマラソンをする上でとても重要で、積極的に摂取するべき栄養素のひとつです。でも、その理由をきちんと説明してくれる人も、それほどたくさんはいません。そこで、ここではランナーに鉄分が必要な理由を詳しくお話していきます。
鉄分とは何なのか?
鉄分が必要な理由を話す前に、鉄分とはそもそも何なのかについて説明しておきます。鉄分と聞くと金属をイメージするかもしれませんが、体に金属なんて必要なの?と疑問に感じますよね。まずは、そのあたりの基礎知識をつけておきましょう。
鉄分というのは、わたしたちのよく知っている「鉄(Fe)」のことです。そんなものを体に取り込んで大丈夫なの?と思うかもしれませんが、むしろ人間の体に絶対に必要な成分のひとつです。
実際に男性は約4g、女性は約2.5gの鉄が体内に存在します。体内にある鉄は大きく分けて2種類あります。
・機能鉄:酸素を運搬する
・貯蔵鉄:酸素を溜め込む
体内の鉄の約70が機能鉄で、血液中のヘモグロビンとなって肺から吸い込んだ酸素を体内に送り届けます。そして、筋肉や臓器で貯蔵鉄が酸素を溜め込み、血液中に酸素が足りなくなったときに酸素の供給を行います。
鉄は錆びるというイメージがあるかと思いますが、鉄は酸素と結びつきやすい性質があり、その性質を使って、わたしたちの体の隅々にまで酸素を送り届けているわけです。
鉄分が不足すると、まず貯蔵鉄からなくなっていきます。これは非常時に使う酸素を保持しているだけですので、通常生活を送る分には大きな支障にはなりません。ただし、さらに鉄がなくなると今度は機能鉄も不足して、血液中のヘモグロビンが不足します。
そうなると酸素を運べなくなり、いわゆる貧血の状態になるわけです。
女性が貧血になりやすいのは、生理によって大量の出血があり、貯蔵鉄が不足しやすい状態にあるためです。貯蔵鉄が足りないので、すぐに機能鉄不足にもなり、酸素を運べないわけですから具合が悪くなってしまいます。
ランナーに鉄分が必要な5つの理由
鉄分は酸素を体に送り届けるために、必須の成分であることを理解してもらえたと思います。そこでいよいよ本題です。ランナーになぜ鉄分が必要なのかを分かりやすく説明します。
理由1.ランニングは大量の酸素供給が必要
多くのランナーがすでに体感していることかと思いますが、ランニングには大量の酸素が必要になります。特に負荷を上げたときには酸素不足で、息苦しくなりますよね。でも体に鉄分が少ないと、酸素をたくさん送り込めなくなります。当然走りも重たくて、ペースを上げられないため記録が伸びません。
反対に鉄分がたくさんあれば、多くの酸素を送り込むことができるので、いつも以上にスピードを上げることができます。このため、陸上界では不適切に鉄剤を注射することがありました(今でも一部であるようです)。
そのような不自然な摂取はともかく、鉄分が体に多く取り込まれると、走りは間違いなく改善されます。このため、ランナーにとって鉄分は必須の栄養素であり、レースで結果を出すにはきちんと摂取する必要があります。
理由2.汗から鉄が流れ出している
意識的に鉄分を摂らなくても、そもそも体内にあるのだから問題ないのでは?そう思う人もいるかもしれませんが、鉄分は汗と一緒に流れ出てしまいます。ランニングは大量の汗をかきますので、鉄分が自然と足りなくなります。
失った鉄分を補給しないと貯蔵鉄が不足して、そして機能鉄も足りなくなり、貧血の状態で走り続けることになり、場合によっては倒れてしまいます。このため、汗で失っただけの鉄分をきちんと補充する必要があるわけです。
理由3.着地の衝撃で赤血球が壊れる
ランニングは足裏を何回も地面に叩きつける運動です。これによって、赤血球が壊れてしまうことが分かっています。ヘモグロビンは赤血球の構成要素のひとつですが、赤血球は酸素を引き寄せたヘモグロビンを体の隅々に送り出す役割があります。
ヘモグロビンは酸素を引き寄せることができますが、それ自体が血液の中を流れることができるわけではありません。赤血球というボートに乗って初めて、体の細胞に酸素を送り届けることができます。
ランニングは、その赤血球を壊してしまい、結果的に酸素を送り届けることができなくなります。この状態を溶血といいます。足りなくなった赤血球を体が作ろうとしますが、その材料として鉄分が必要になります。
理由4.ランニングによって体が酸化する
負荷の高いランニングを行うと、体内に活性酸素が発生します。これが「ランニングは老化を早める」と言われる理由です。活性酸素が増えていくと、認知症や白内障、ガンなどの発症率が上がってしまいますが、鉄分にはこの活性酸素の発生を抑える役割があります。
活性酸素である過酸化水素を分解できるカタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼなどの酵素の成分として鉄分が使われています。鉄分が不足すると、これらの酵素を作ることができないため、体内の活性酸素が増えて老化が進むというわけです。
そうならないために、活性酸素が出来ないレベルのランニングが理想ですが、そういうランニングには達成感もなく、あまり楽しいものではありません。自分を追い込むような走りをしたいなら、抗酸化のためにも鉄分が必要になります。
理由5.そもそも日本人は鉄分が不足しがち
そもそも論でいえば、日本人の食事は鉄分が不足しやすい傾向にあります。30〜60歳の男女に推奨されている鉄分量は次のようになっています。
男性:7.5mg/日
女性:6.5mg/日(月経時は10.5mg/日)
男性は必要な鉄分を摂取できているケースが多いのですが、女性は40〜50%程度が鉄分の摂取量が足りていないという調査結果があります。また、成長期の子どもも鉄分が不足しやすい傾向にあります。
最近の日本人は肉や魚の食べる量が増えていますが、以前は炭水化物中心で、鉄分は吸収性の悪い野菜から摂取していました。このため、和食中心の生活になるとどうしても鉄分が不足しがちです。
鉄分不足を補うためにはどのような食べ物を選べばいいのかについて、次章で詳しく説明します。
鉄分を積極的に摂るためのポイント
不足しがちな鉄分は、鉄剤注射で補うのが効率的ですが、市民ランナーがマラソンのためだけに鉄剤注射を使うのはおすすめできません。きちんと食べ物から摂取する食習慣に切り替えましょう。
また、どうしても食べ物から摂取的ない場合には、サプリメントを使うという方法もありますが、サプリメントを使うときにはいくつかの注意点があります。それらについて解説していきます。
鉄分を摂るのに適した食材
鉄分はヘム鉄と非ヘム鉄の2つの種類があり、それぞれに吸収率が違います。
・ヘム鉄:吸収率 15〜25%
・非ヘム鉄:吸収率 2〜5%
私たち人間は口にした鉄をすべて吸収できるわけではなく、ヘム鉄でも口にした鉄分の15〜25%しか吸収できません。非ヘム鉄は2〜5%ですので、かなり効率が悪いですよね。ただし、ヘム鉄ばかり摂ると栄養バランスが悪化します。
非ヘム鉄でもタンパク質やビタミンCと一緒に摂ると吸収率が上がりますので、他の栄養素とのバランスを考えて摂るようにしましょう。鉄分が多く含まれている食材は次のようになります。
●ヘム鉄(100g中)
・豚レバー:13mg
・鶏レバー:9mg
・牛もも肉:2.7mg
・しじみ:4.3mg
・かつお:1.9mg
●非ヘム鉄(100g中)
・ほうれん草:2mg
・ひじき:6.2mg
・ゆで大豆:2mg
・卵黄:6mg
・小松菜:2.7mg
鉄分=レバーというイメージが強いかもしれませんが、それで間違いありません。ポイント練習などで負荷の高いトレーニングをしたときには、レバーを積極的に活用しましょう。
鉄分サプリメントの注意点
自炊している人なら、鉄分を積極的に摂ることができますが、外食が多い人やレバーが苦手な人は食材だけからレバーを摂るのは難しいですよね。そういう場合には、サプリメントをうまく使いましょう。
ただし、サプリメントを使うときには次のことに気をつけてください。
・ヘム鉄のサプリメントを選ぶ
・過剰摂取しない
・お茶やコーヒーとは一緒に摂取しない
・食間に摂る
まずサプリメントとしては、摂取効率のいいヘム鉄のサプリメントを選ぶようにしましょう。そのうえでとても重要なのは、過剰摂取しないということです。基本的には医師に相談なく、鉄分サプリメントを摂取するのは避けてください。
過剰摂取は体に害を与えてしまいますので、少なくともパッケージに記載されている分量をきちんと守るようにしてください。
また、鉄分は他の栄養成分の影響を受けて吸収率が下がることがあります。お茶やコーヒーとは一緒に摂らないようにしましょう。タイミングも食前食後ではなく、タイミングをずらして食間に摂るようにしてください。
アサイーの造血効果を利用する
最近の研究結果で、アサイーには造血効果があることが分かっています。詳細は下記リンク先を読んで欲しいのですが、アサイーを適量摂取することで、ホルモンに働きかけて体が血を作ることが分かっています。
自然な形で体内のヘモグロビンを増やしたいのであれば、アサイードリンクやアサイーパウダーなどを活用してみましょう。
まとめ
ランナーにとって鉄分はとても重要な栄養素のひとつです。鉄分だけを摂っておけばいいというものではありませんが、貧血の状態になったら、いくら練習を重ねても結果に繋がりません。
積極的にヘム鉄の食材を食べるようにして、それでも不足するようであれば医師と相談してサプリメントを使いましょう。過剰摂取は体に害を与えますので、そのことはしっかりと頭に入れて、正しい量を補うように心がけてください。