ランニングを継続すれば頭が良くなる?【心と体の相互作用】

アシックスがeスポーツ、チェスなど高い思考能力を用いて競われるマインドスポーツのプレーヤーである20か国77人を対象に、2022年5月から9月にかけて4か月にわたる運動プログラムを実施したところ、「認知機能」が平均で10%向上という結果が得られました。

これまで「運動をすると頭の回転が早くなる」と漠然と感じていた人もいるかと思いますが、今回の研究では運動することで頭が研ぎ澄まされるなどの改善が見込めることが明らかになりました。そこで、今回はアシックスの発表内容とそれに対する考察をしていきたいと思います。

目次

マインドアスリートの「認知機能」が平均で10%向上

まずはアシックスの研究内容とその結果についてご紹介します。

研究は運動とメンタルヘルス研究の第一人者であるブレンドン・スタッブス博士が主導し、マインドアスリートは世界的なトレーニングコーチのアンドリュー・カスター氏によって考案されたトレーニングプログラムに従って実施されました。

ブレンドン・スタッブス博士は、4か月の研究期間中、マインドスポーツ、認知テスト、健康アンケートの成績に基づき、参加者の精神的改善を測定しています。

●対象

 18歳以上で週に30分未満の運動しか行っていないマインドアスリート(22カ国77人)

●運動プログラム内容

週平均150分程度の有酸素運動と筋力トレーニング

●結果

認知機能:10%向上
・問題解決能力:9%向上
・短期記憶能力:12%向上
・処理速度:10%向上
・注意力:10%向上
自信:44%向上
集中度:33% 向上
不安感:43%改善

引用:アシックス「運動が頭脳を研ぎ澄ます 運動と「認知機能」の相関性に関する研究報告」

ブレンドン・スタッブス博士のコメント

私たちは、高い思考能力を備えるマインドアスリートに対する運動効果を調べたいと考えていました。今回の研究結果は、問題解決能力や集中度など、「認知機能」の大幅な改善を示しています。

運動は脳内の細胞の成長を刺激し、海馬と前頭前皮質への血流を増加させます。これにより、記憶の保持、情報の処理、問題の迅速な解決が可能になります。

このことは私たちにとって良い影響があると考えます。例えば、試験に向けた学習の際に集中力を高めたり、仕事でのプレゼンテーション前に注意力を高めたりするなど、運動は脳を活性化することが期待できます。

ブレンドン・スタッブス博士は、運動がマインドアスリートの「認知機能」とパフォーマンスを改善したことを示すだけでなく、メンタルヘルスにおけるスコアが31%向上したことも発見しました。研究開始時のプレーヤーの平均スコアは「58」未満でしたが、終了時には「76」と高く、運動がメンタルヘルスにも大きな影響を与えることを示しています。

アンドリュー・カスターコーチのコメント

マインドアスリートの多くは、研究開始時に1分以上ジョギングすることができなかったため、トレーニングプログラムを適度なものにする必要がありました。週に150分というと多いように聞こえますが、細かく分けると、30分×5セットといった考え方もできます。運動レベルに関係なく、メンタルヘルスへのポジティブな影響はすべての人が享受できます。

ランニングを継続すれば勉強も仕事も上手くいく

アシックスの研究結果から分かるのはとてもシンプルなことで、運動をすることで頭の回転が早くなり、しかもメンタルも明らかに改善されるということ。もっともこれは、ランナーの方ならすでに実感していますよね。

仕事が上手くいかず落ち込んでいるときも、走りに出かければすっきりして戻ってこれる。走って悩みごとが解決するわけではなくても、少なくともひどくネガティブになっている状態から抜け出すことができ、前向きにトラブルを乗り切れる。それがランニングの魅力です。

今回の研究はそれが「気のせい」ではなかったことが明らかになったわけです。しかも思考が向上するわけですから、仕事で行き詰まったときなどには部屋で悩むよりも、軽く走りに行ったほうが解決策が思いつく可能性もあるわけです。

そういえばノーベル賞を受賞した山中教授は、研究で忙しいはずなのに月間300kmも走っています。すべてがランニングのおかげというわけではないでしょうが、ランニングを継続することが何らかのポジティブな影響を与えている可能性はあります。

会社員の場合には仕事で嫌なことや上手くいかないことがあったら、飲みに行ってお酒に救われたくなるかもしれませんが、そこはむしろ「走りに行く」を選ぶ。勉強でも同じで、資格試験などを受けるときには、ランニングを休みにするのではなく、むしろ勉強のために走るほうが良さそうです。

オーバートレーニングに注意しよう

今回の研究結果から「走ればすべて解決!」と考えて、とにかく月間走行距離を増やそうとする人もいるかもしれませんが、それはちょっと待ってください。今回のポイントは「週に150分」というところにあります。

1日30分で1週間に5日という計算になりますが、それ以上運動をしたらどうなるかは調査されていません。1週間にどれくらい運動すれば最適なのかという点はわからず、実は100分が理想かもしれませんし、300分が理想かもしれません。

ただ「1日5km以上は不健康になる」という考え方もありますので、心と体が相互に作用することを考えると、オーバートレーニングは思考能力を低下させる可能性も考えられます。フルマラソンを走ると血液中のグリコーゲンが減少し、脳の栄養が不足します。

マラソン大会翌日は頭が回らず仕事にならないという経験をしたことがある人もいますよね。単純に走れば走るほど仕事が捗るというわけではありませんので、仕事や勉強をメインに考えるなら「ほどほど」を心掛けてください。

ちなみにアシックスが実施した今回の研究は、ドキュメンタリームービー「マインドアスリート-彼らが挑む実験ドキュメンタリー」として、3月下旬からAmazonプライム・ビデオで配信されます。プライム会員の方は楽しみに待ちましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次