ラン仲間が東京から新潟までの514kmを駆け抜ける「川の道フットレース」に出場し、後半部分のサポートを依頼されました。自分が出場したわけではなく、レース後半からのサポートでしたので、大会全体までは把握できていません。
ただ、とても人気の高く、なかなか走ることができないこの大会。話のネタとしても、ランナーのみなさんに、こんなレースがあるということを知ってもらいたくてレポートします。
川の道フットレースには、514kmを駆け抜ける「日本横断ステージ」と約半分の距離の「千曲川〜信濃川ステージ」の2種類があります。
日本横断ステージのスタートは4月30日午前9時。葛西臨海公園駅前から荒川を遡るように走り、分水嶺を越えてからは信濃川の流れに沿って下っていきます。制限時間は5月5日の9時までの132時間。
約半分の距離254kmを走る千曲川〜信濃川ステージは通称ハーフと呼ばれますが、ハーフで254kmというのは、想像を絶します。
もちろん、誰でも出られる訳ではありません。514kmの日本横断ステージは200km以上のウルトラマラソン、千曲川〜信濃川ステージは140kmのウルトラマラソンを完走していなくてはいけません。
日本横断ステージは130人、千曲川〜信濃川ステージは70人。前年度の上位ランナー以外は、抽選に当たらないと走ることができません。参加資格だけでもハードルが高いのに、さらに抽選もあります。
そして、抽選に当たった幸運なランナーは孤独な戦いへと向かいます。今年の日本横断ステージは小雨のスタート。晴れて暑くなっても厳しい大会ですが、峠越えがありますので、雨も大きな敵となって参加者に襲いかかります。
そしてなによりも辛いのが、周りに誰もいないという状況です。走力が近いランナーは何度も抜きつ抜かれつの展開を繰り返しますが、そのタイミング以外は、ほとんどは自分だけの時間です。
山奥で周りに誰もいない状況。それが深夜にもなると、精神的な強さも求められます。どんな状況になっても自分を信じること。絶対に完走するという強い心。
川の道フットレースを走り抜くポイントはそこにあります。これだけの距離を走れば、どんなランナーだってどこかで不調を感じます。走れない時間もやってきます。そこでいかにして崩れないか。
言葉にするのは簡単です。でも、実際に簡単ではないのは30人以上のランナーがタイムオーバーになったり、途中棄権したりしたことからもわかります。みんな200km以上のレースを走りきる強さがあるのに、514kmの壁が立ちはだかります。
そんなランナーをサポートする人もいます。かつて自分が参加者だった人や、幸運にも走るチャンスを与えられた仲間をなんとかゴールまで導きたいという人。最初から最後までサポートを続ける人もいれば、私のように部分的にサポートする人も。
そういう人たちがいて、何度も顔を合わせる同士がいて、ランナーは「1人じゃない」と感じることもできます。500kmを超えるレースでは、この「1人じゃない」どいう感覚を得られるかどうかで結果が大きく変わります。
時に励まし、時に励まされ。
スタートではライバルだったはずなのに、時間とともに支え合う仲間になる。
意図的にその環境を作り出すためにかどうかはわかりませんが、大会運営として、選手の細かな管理はほとんどしません。コース上を巡回することもなく(見えている範囲内では)、やろうと思えば不正も簡単にできてしまいます。
でも、500kmを走ろうという人はみんな、それをしても何にもならないということを理解しています。
500kmの道のりを誇れるかどうかは、自分がどんな走りをしたかにかかっています。何度も心が折れながらも前に進んだか。最後まで自分をコントロールできたか。それを知っているのは自分自身だけ。
ベストを尽くして完走したという誇りの前では、完走メダルやトロフィーはいらないもの。本当に大切なものは、苦しみに耐え抜いて手にすることができる、形のない何か。だから、514kmを走っても完走証を1枚もらえるだけ。
距離はともかく、こういう大会がこれから増えていくのだろうなという気がします。多くのランナーは、練習さえすれば42.195kmの距離を走ることが難しくないことを知っています。その結果、さらに達成感を得られる競技に挑戦する。
その先としてトレランやウルトラマラソンがあり、さらにその先に、レースそのものが旅となる川の道フットレースのような壮大な大会が増えていく。決してニーズは多くないのかもしれませんが、難しいからこそ挑戦したくなるのがランナーです。
自分の限界がどこにあるのか。自分にはどんな可能性があるのか。とことん追求してみたい人に、川の道フットレースはとても魅力的な大会です。ただし、人気が高く参加条件も厳しい大会でもあります。
まずは、この川の道フットレースに出場する権利を得るために、140kmや200kmのウルトラマラソンの完走を目指してみませんか。とてつもない距離に思えるかもしれませんが、レースを通じて自分の変化を感じられる数少ない大会です。
誰にでもおすすめできるわけではありませんが、「いずれ走りたい大会」のひとつとして頭の片隅に置いておくと、ランニングライフがちょっとだけ変わるかもしれません。