レースには勝者と敗者がいる。
ルールを犯してまで勝利を手にしたかった勝者と、制限時間にわずか1分足りずに敗者となった敗者。最大の拍手を贈られたのは敗者の方でした。
第8回ハセツネ30Kは男女ともに必須携帯品の不所持となり優勝者が失格し、2位の選手が繰り上げ優勝。
ハセツネ30Kは競技化が進みすぎた、ハセツネCUP(日本山岳耐久レース)の入門的な位置づけにあり、誰もが楽しめる日帰りのファンランとして始まっています。
ところが大会完走者の男子1,000位以内、女子100位以内の選手がハセツネCUPへの優先エントリー権を獲得できるため、ハセツネ30Kも本来の方向性を見失ったかのような競技性の高いレースになっています。
男子1526名、女子212名の参加者であるため、男子は3人中2人、女子は半分の選手がハセツネCUPへの出場権を得られます。その出場権を求めて多くのトップトレイルランナーが集まる「入門レース」なのです。
スタート会場は秋川渓谷にあるリバーティオ。東京の片隅で行われるこの大会は、地元の人の多くが関心を持っています。通りすがりのおばちゃんですら、知っている超メジャーな大会なのです。もっとも有名なのはハセツネCUPだけですが。
山のレースということで、明るいうちに走りだして明るいうちにゴールすることができるようにと、8時半のスタートになります。ただし受付は8時まで可能ですので、関東在住者にはそれほど厳しくないスタート時間です。
ただし最寄り駅の武蔵五日市駅からは徒歩25分。7時半に到着の電車に乗っていたトレイルランナーたちは、きれいに咲いた桜に目を向ける余裕もなく、駅から急ぎ足で会場に向かいます。
スタート会場は大混雑ですが、この大会のコースは半分近くがロードを走ることになるため、トレイルでの渋滞が起きにくい大会でもあります。ロード分が多い大会ですので、トレイルシューズではなく普通のランニングシューズのトレイルランナーも大勢います。
しかも30kmしかありませんので、男子のトップで2時間43分、女子のトップで3時間21分で戻ってきます。トレイルのテクニックよりも若さや、勢いがものをいう。そんなレース展開になっています。
とくに女性ランナーは20代の新世代の活躍が目につきます。そして面白いことに女性の若いトレイルランナーはロードレースに比べてしっかりメイクの人が多く、ファッションを含め、おしゃれさを求める人が多いということ。
そんな若い女性ランナーは大会の華になっていますが、ベテランというのは失礼かもしれませんが、経験のある女性ランナーたちの走りも安定感があり、見ていて参考になりものがあります。
もちろん男性のトレイルランナーも素晴らしい走りを見せてくれます。
これだけの素晴らしい大会なのですが、応援ポイントがほとんどないのが残念です。トレイルランニングは魅せることの出来る競技のひとつなのに、スタートからはロードのレースになり、ゴール手前1kmまで遡らないとトレイルがありません。
しかも29km地点ではトレイルランナーはすべてを出し切ったあとなので、上位のトレイルランナーであっても、元気なトレイルランナーもいれば、今にも倒れてしまいそうなランナーがいます。
本当の魅力はきっと、一般の応援者が見ることの出来ない山奥での競い合いです。ここが非常にもったいないのですが、そもそも応援者もあまり多いわけではありません。
これだけの知名度のある大会であれば魅せることも追求してもいいのかな、と私は思うのですが、あくまでもこの大会はハセツネCUPの入門ですので、走る人が楽しめばいい。そこはブレていないのかもしれません。
地元の人たちが出している飲食のブースも選手分をまかなうので精一杯という感じでした。
もちろん、走った選手たちは満足な顔をして戻ってきます。ゴール手前で待っていた子供と手をつないでフィニッシュラインを超えるお母さんランナーの姿は、心にグッとくるものがあります。
そして制限時間1分前にゴール地点の先に姿を現したランナー。その全力の走りに会場は沸き立ちます。そのランナーの嬉しそうな顔。30kmを走り切った安堵感。
制限時間を過ぎてから帰ってくるランナーの悔しそうな表情も印象的でした。それでもゴール前に残っている人たちは惜しみなく大きな拍手を続けます。
欲を言うならば、最終ランナーのゴール時にもっと多くの人たちが出迎えてくれると、ハセツネ30KはハセツネCUPへの優先エントリー権で釣らなくても参加者が増える本当の楽しいトレイルレースになるような気がします。
走り終えたトレイルランナーから順次帰っていく。年代別の入賞者の一部には表彰式にも出ずに帰ってしまう人もいて、せっかくの表彰式がさみしくなる年代もありました。
伝統あるハセツネCUPに対して、ハセツネ30Kはこれから試行錯誤を続けていくのかもしれません。このハセツネ30KにはハセツネCUPにない魅力があるはずです。ハセツネCUPを半分にしただけの大会ではない何かをアピールできるか。
ハセツネ30Kの今後の課題かもしれません。
ただはっきり言えるのは、雰囲気のいい素晴らしい大会だということです。