日本一早いマラソンレポート「VJC 第3戦・大阪大会(旧ハルカススカイラン)」

3年ぶりにあべのハルカスに戻ってきた階段垂直マラソン。これまで「ハルカススカイラン」の名前で親しまれてきた大会は、階段垂直マラソンの日本一を決めるためのサーキットシリーズ「VJC 第3戦・大阪大会」として戻ってきました。

会場はこれまでと同じ、階段垂直マラソンの聖地でもある”あべのハルカス”で、285m・1610段の階段を駆け上がります。そのVJC 第3戦・大阪大会(旧ハルカススカイラン)について、どのような大会だったのかをまとめてレポートしていきます。

目次

日本最速を決めるサーキットシリーズとして凱旋

1610段の階段を駆け上がるハルカススカイラン。ランナーだけでなく、さまざまな業界のトップアスリートが最速の座を目指して開催されている大会ですが、今年はVJC(2023 YOKOMORI VERTICALRUNNING JAPAN CIRCUIT)の第3戦として開催されます。

名前は変わりましたが、一般の参加者にしてみれはこれまでと基本的に同じ。あべのハルカスの60階を目指して駆け上がる、信じられなくらいに苦しいレース。たった10〜20分で終わるのに、このきつさを比較するものがないくらい追い込めます。

ただ、参加するハードルが高いかというとそうでもなく、最年少は6歳、最高年齢は78歳と、基本的には誰でも参加できる大会です。どこまで苦しむかは自分次第で、苦しむことなく淡々と上っていくということも可能。

この苦しさを自分で決められるというのが階段垂直マラソンの面白いところ。限界だと思ったところの先に行くかどうかを決めるのも自分。その手前でブレーキをかけるかどうかを決めるのも自分。ただ、限界の向こう側の領域に飛び込むことはそれほど難しくありません。

その結果、途中で潰れてしまう人もいますが、それすら振り返ったときに楽しかったと思える要因で、思うように走れなかった人ほど「来年こそは」となるのが、VJC大阪大会を含む階段垂直マラソンの魅力だったりします。

最速タイムはエリートの部で8分17秒29

VJCというのはエリートランナーが国内3大会(名古屋・東京・大阪)で競い合う大会で、名古屋大会と大阪大会のみ一般参加者の部門が用意されています。今回のエリートの部で優勝した渡辺良治選手のタイムは、8分17秒29というタイム。

前回大会は最上階でフロアを回るコースになっていましたが、今回は階段を上がりきったところでゴールとなっていますが、渡辺選手にとっては自己ベストに近いタイムだったとのこと。それも以前より余力があったそうなので、国内で飛び抜けた存在なのはしばらく不動かもしれません。

競い合いという観点から考えると、強力なライバルが現れて欲しいところですが、彼の階段垂直マラソンにかける情熱は尋常ではなく、人生を賭ける強い意志を持っていないと、簡単には対抗できないのかもしれません。

男子の渡辺良治選手だけでなく、女子の立石ゆう子選手もVJC3大会すべて優勝しており、こちらも圧倒的な存在感を示しています。キングとクイーンが盤石な状態にあり、2023年シーズンはこれを他の選手がいかに切り崩すかが見どころになりそうです。

VJCのエリートの部は賞金レースになっているので、勝つことが活動資金にもなるので、きっと来年はどの選手も、これまで以上のトレーニングを積んでスタートラインに立つはずです。エリート選手同士はとても仲がいいようですので、優勝賞金の一部は打ち上げで消えるのかもしれませんが。

ただし、一般参加の選手もエリート選手よりも早い記録でゴールしている人も多く、もしかしたら来年のエリート選手は今年とは違った顔ぶれになるのかもしれません。VJCそのものは始まったばかりなので、エンターテインメントとしての今後を期待したいところです。

てんしばが受付エリアである意味

一般参加のランナーはあべのハルカスから少しだけ離れた、「てんしば」で受付と着替えを行います。これは過去の対価も同様で、初めて参加する人はちょっと面倒に感じるかもしれません。ただ、今年はてんしばでエリート選手の走りを生中継しており、多くの一般参加者が食い入るように映像を見ていました。

9分前後で走るトップアスリートが、どのように1610段と向き合っているのかを映像として見ることで、自分がどうするべきなのか、戦略を立てやすかったように感じます。トップの選手ですら、こんなにペースが落ちるのだということも、見ている人にしてみれば勇気になったはずです。

そして、てんしばで着替えてから会場に向かう時間は、気持ちを高めるのにちょうどいい距離。ゼッケンを装着して気持ちが高ぶりすぎている人は落ち着けますし、緊張している人もスタート会場に向かううちにリラックスできる。

スタート会場であるHOOPには、体を温めるための準備運動が用意されていたり、数は多くないものの施設のトイレを使えたりします。スタートはウェーブ方式で次々に走り出すので、待ち時間もそこまで長くなく、3年ぶりとは思えないスムーズな運営。

ただ、今後の開催で雨が降ったときにはちょっと大変そうな感じは、以前からしています。傘を持って移動というわけにもいかないでしょうし、濡れながらの移動が発生した場合にはネガティブな評価が付けられてしまうかもしれません。

もし今後の大会で雨が降りそうだった場合には、ラン仲間や家族に協力してもらい、スタート前に傘を預けられるように、参加者側が工夫しておくことをおすすめします。もっともこれまで1度も雨になっていないのですが。

階段垂直マラソンは心技体の高さが求められる競技

実際に大会に参加したので、そちらについてもレポートしておきましょう。私は午前の部にスタートなので、9:00〜10:30までが受付時間で、11時にスタート会場に集合します。気温は程いい感じで寒くもなく暑くもなく、待っている間に体が冷えるこということもありません。

ただ、スタート会場にはアップエリアがないので、各自が安全に注意しながら路地を走るか、てんしばでアップを済ませておく必要があります。もっとも、ほとんどの人がアップなしで走り出していましたが、心拍数を1度上げておくのがおすすめです。

階段はあべのハルカスの非常階段で、外の景色は全く見えません。空気が乾燥しているからか、上層階に行くにつれて喉が痛くなりますが、給水所が3ヶ所あるので喉を潤しながら走ることも可能。ただ、給水所に入るとロスになるので、記録を狙うにはそのまま階段を上がる必要があります。

20階くらいまでは調子よく上がっていけましたが、30階に到達したときには、残り半分もあることに絶望的な気持ちになります。そうならないように、前半はセーブするのがあべのハルカスの階段垂直マラソンのコツなのですが、いかんせん3年ぶりの開催で過去の経験はほぼ記憶から消えており。

それでも、気持ちを切らさずに階段を上がっていきますが、上に行くにつれて、踊り場で動けなくなっている人が増えていきます。さすがに普段からしっかりトレーニングをしていない人が、前半に飛ばすと呼吸ができなくなるくらい心拍数が上がるので、そういう意味では階段のテクニック「技」が重要になります。

もちろん最後まで足を止めずに、最後まで動き続けるだけのフィジカル「体」が必要なのは言うまでもありません。ただ技術と体力があっても、折れない心を持って限界の向こう側に踏み出さないと、満足感のある結果にはなりません。

ただ「飛び出さないメンタル」も大切。いくら体力に自信がある人でも、むやみに飛び出したら間違いなく潰れます。それを強い気持ちで乗り切れるほど1610段の階段は甘くありません。もっとも、抑えすぎても消化不良になるので、そのあたりのバランスが難しいところです。

心臓が飛び出そうになりながら、飛び出る直前でゴールできるのが理想でしょうか(心臓が飛び出ている人を見たことがありませんが)。エリート選手の多くがゴールした直後に倒れ込んでいるので、そこまで追い込めると、また違った景色が見えるのかもしれません。

フルマラソンとは違った爽快感や達成感がある

今回はあべのハルカスの建物が「原則マスク着用が義務付けられている」ということで、案内のメールにマスク着用のお願いと、必要に応じて外してもいいとなっていました。運営としてのもどかしさが伝わっている内容でしたが、結果的に多くのランナーがマスクなしで走っていました。

商業施設を使用して開催するということで、とても難しい問題ですし、それぞれどう受け取るかは異なってきますが、1人の参加者としては早く、このような注意書きがなくて済むような状況になるのを願うばかりです。

これとは別に、ゴール地点がこれまでと変わっており、ゴールを通過したことに気づいていない人もいて、これはちょっともったいなかったかもしれません。なんせ階段垂直マラソンはゴールしたときの達成感が魅力なのですから、知らないうちにゴールしていたのではその魅力が半減します。

もちろん案内にしっかり記載はされていましたので、フィニッシュラインが細い赤いテープ1本だったので、以前のようなゴールゲート、もしくはそれに該当するものがあったほうが嬉しいところ(FINISHの看板が反対向きならよかったかも)。

もっとも、これもコロナ禍が落ち着いたら、以前のゴールに戻るのでしょうから、特に大きな問題でもありません。

このように多少、ネガティブな部分もありましたが、3年ぶりとは思えないくらいスムーズな運営でしたし、スタッフもところどころで大阪を感じられる、人情味のあるサポートや対応をしてくれました。遠征組としては、そういう部分も満足感につながりました。

ただ、やっぱり最大の魅力は走りきったあとの爽快感や達成感。フルマラソンにはないオールアウトした感じは中毒性があり、そしてどんなタイムになっても「来年こそは」という気持ちになります。フルマラソンも素敵ですが、せっかく体力がついたなら、階段垂直マラソンに挑戦してみるといいですよ。

絶望の先にある達成感は、走り終えた後のビールを3倍美味しくしてくれますから。

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