日本一早いマラソンレポート「Wings for Life World Run 2024」

ランナーは基本的に自分のためにだけに走るもの。日々のトレーニングだって自分のためだから頑張れます。でも駅伝という競技が示しているように、チームや仲間のためなら、自分の限界だと思っていた壁を、容易に乗り越えられたりします。

誰かのために走る。それは個人競技であるランニングに相反するようで、実はとても理にかなっています。そして「Wings for Life World Run 2024(ウィングス・フォー・ライフ・ワールドラン)」はそんな「誰かのために走る」を形にした、世界的なチャリティーランイベントになります。

目次

Wings for Life World Runとは

まずはWings for Life World Runについて簡単に説明しておきます。

Wings for Life World Runの主催者でもあるチャリティー団体「Wings for Life」が目標としているのは「脊髄損傷の治療法発見」です。私たち人間は脊髄を損傷すると、体にマヒを抱えてしまうのですが、これだけ科学が進歩した時代においても、その治療法が見つかっていません。

その一方で脊髄の損傷は誰にでも起き、日常生活に潜んでいる不慮の事故などにより、昨日まで健康だった人が、いきなり歩行困難になってしまうこともあります。その現状を変えるためには多額の研究費が必要になり、Wings for Life World Runは、その支援を募るために開催されます(今年は8.1百万ユーロが集まりました)。

チャリティーランとして面白いのは、世界同時開催されるという点にあります。今年は265,818人のランナーが脊髄損傷の治療法発見のために、脊髄損傷と向き合っている人のために、この地球上で同時に走り始めます。まさに世界がひとつになる瞬間が生まれるわけです。

通常のマラソン大会とは違う点は他にもあります。それはキャッチャーカーと呼ばれる車に追いつかれるまで走るということ。キャッチャーカーはランナーがスタートしてから30分後に走り出し、徐々にペースを上げていき、追いつかれたらそこで終了となります。

鬼ごっこみたいなものをイメージしてもらえればいいかもしれません。世界のいくつかの場所では、実際に車が追いかけてくるのですが、日本ではアプリを使ってバーチャル鬼ごっこ「アプリラン」が行われます。このため、自分の走りやすい場所を選んで参加できます。

ただ、「誰かのために走る」の効果を最大限に高めるためには「誰かと一緒に走る」も重要。そこでリアルレースが開催されない日本では、いくつかの会場でランナーが集まって、一緒にバーチャルレースに参加できるようになっています。

今回のレポートはそんな会場のひとつである、東京会場を取材したものになります。

東京会場は神宮外苑

日本国内会場のひとつである東京は、神宮外苑の特設コースにて開催されました。神宮外苑は24時間マラソンの日本代表選考レースが開催されるくらいフラットで、Wings for Life World Run 2024のような安定したペースで走る競技に最適です。

世界同時開催とお伝えしましたが、日本のスタート時刻は20時で、トップレベルのランナーは60km以上走るため、そのレベルになると走り終えたときには終電が終わってしまいます。ただ、東京のど真ん中で開催することで、なんらかの方法で朝を迎えられるように配慮されています。

ただしコースは神宮外苑をぐるっと周るのではなく、折り返しを組み合わせたコースとなっているため、部分的にコースが狭くなるエリアがあります。スタートしてから30分は、キロ3分台のランナーがキロ10分以上のランナーを何度も追い抜いていく。

これに関しては正直なところキャパオーバーを起こしているように感じるところもあります。もっとも、マラソン大会にありがちなピリついた雰囲気にはならず、追い抜く側が上手く配慮しつつ走っていました。ただ、トラブルの種であることは間違いなく、今後の課題になるはず。

またコース上には水とレッドブルで補給できるエイドがあるものの、ランナーは基本的に無補給で走ることになります(レッドブルで糖分を補えますが)。ランナーによっては、足の疲労よりも先に、エネルギー切れや空腹でストップしてしまいます。

このため、もしWings for Life World Runに参加することになったなら、補給をどうするかを考えておく必要があります。少なくともジェルは持って走りたいところ。もしくはラン仲間にサポートしてもらい、このチャリティーイベントに巻き込んでしまうのもおすすめです。

もちろんコース上にトイレが用意されていますので、トイレに行けなくて困るということはありません。

どうしたって悔しいレースになる

Wings for Life World Run 2024 東京アプリラン会場の気温は約21℃。緩やかな風があり、走っていないと心地よいコンディションになりました。ただ、オーバーペースになってしまい、大量の汗をかいている人もちらほら。とはいえ国によっては、太陽の下を走ることになるわけで、そう考えるとまずまずのコンディションです。

Wings for Life World Run 2024はチャリティーランイベントですが、しっかりとしたプランニングを求められます。たとえばサブ3レベルのランナーであれば、キロ4分15秒ペースで走ればキャッチャーカーに追いつかれずに、42kmを走り切れます。

でも42kmの先の領域に足を踏み入れることになるので、実際にはもっとペースを抑えなくてはいけません。でもペースを抑えすぎると42kmの手前でキャッチャーカーに追いつかれる。自分のペースの落としどころをどこにするか。これはかなら奥深いレース戦略が求められます。

とはいえ実際には多くのランナーが「とにかく限界まで走る」というスタンスのように感じました。そもそも普段はそんなに走っていないという人も多く、自分の走力を把握していないのでペース配分も何もないわけです。その結果、面白い現象が起きます。

キャッチャーカーに追いつかれた人は、ある程度の満足感と共に「もっと走れた」という悔しさに包まれます。コース上にはまだ走り続けているランナーがいることも、悔しさにつながります。どうやっても悔しいわけです。最後の1人にならない限り。

後半になると限界を超えて走ってしまう人も出てきます。通常のマラソン大会とは違い「追いつかれるまで走る」というスタイルは、終わりのないレースを走っているようなもので、自分の走力を超えて走り続けて足を攣る人も出てきます。

そこまでいかなくとも、走り終えて足が棒のようになる人が多数。ランニングに携わる者として、これに関してはは「本当にそれでいいのか」と自問してしまいました。限界を超えることができるのは素晴らしいことではありますが、そこにも限度はあります。

マラソン大会にしてもランイベントにしても、家に帰って初めて「完結」になります。限界を容易く超えていけるイベントだからこそ、どこかにリミッターをかけたほうがいいようにも感じます。ちなみに男子の優勝者は日本人で70.1kmを走っており、これくらの距離を走る人にはリミッターなんて必要ないのかもしれません。

2025年は5月4日開催が決定

Wings for Life World Runはこれからさらに日本国内で注目度が上がり、参加者も増えていくはずです。国別で見たときに、日本は参加者数がそれほど多くなく、Wings for Life World Runのゲーム性を考えると、まだまだ伸び代を感じます。

ただ、そうなるためにはもっとたくさんの拠点が必要になります。そしてネックになるのは20時スタートということです。とはいえWings for Life World Runはまだ始まって数年のチャリティーイベントであり、これから国内でも形が変わっていくはずです。

たとえばテントで宿泊できる拠点ができると、時間を気にせず拠点でのランに参加できます。もちろん、自宅近くを走るというのでもいいのですが、Wings for Life World Runの魅力のひとつである「人と人の繋がり」は単独走では得られません。

そう考えると自発的にラン仲間を集めるプチ拠点が、全国各地に生まれるというのが日本における理想の未来図なのかもしれません。それが5年後なのか10年後なのかはわかりませんが、ちょっと想像してみただけでワクワクしてきました。

そのために大事なのは、多くのランナーにWings for Life World Runを知ってもらうこと。そして2025年のエントリーをしてもらい、キャッチャーカーから逃げる楽しさを体感してもらいファンを増やしていくことになります。ちなみに来年の開催日は5月4日に決まっており、すでにエントリーも開始しています。

来年のことなんてまだわからないと思うかもしれませんが、参加費はすべて寄付されるので、どんな形であれ無駄になることはありません。誰かのために、いやもしかしたら将来の自分や家族、仲間のためにエントリーしてみてはいかがでしょう。

Wings for Life World Run:https://www.wingsforlifeworldrun.com

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