日本一早いマラソンレポート「太郎坊チャレンジ」

ランニングというのはおもしろいものので、最初は「もっと速く走れるようになりたい」という想いだったものが、いつの間にか「フルマラソンよりも長い距離を走りたい」「山を走ってみたい」というように、フルマラソンとは違う道も好んで走るようになります。そんな道のひとつに「太郎坊チャレンジ」が加わりました、

太郎坊チャレンジは滋賀県東近江市にある神社「太郎坊宮」の階段を、誰よりも走る「ステアクライミングレース」です。階段なんて走ってもきついだけでは?それって楽しいの?と思うかもしれませんが、実際に走ってみるとランナーがドハマリする要素が詰まった、魅力的なレースになっていました。

ステアクライミングレース「太郎坊チャレンジ」の魅力

最初に太郎坊チャレンジについて説明しておきましょう。太郎坊チャレンジの舞台は滋賀県東近江市にある太郎坊宮の参道379段。太郎坊宮が建てられたのは約1400年前で、「勝利の神様」として全国から多くの参拝客が集まる、知る人ぞ知る有名な神社です。

太郎坊宮前駅からは山の中腹にその姿を見ることができるのですが、「あんなところまで本当に走れるの?」と不安な気持ちになってしまいそうですが、「太郎坊チャレンジ」は、ステアクライミングレースの中では短距離に分類されます。実際にトップレベルの選手だと1分もかからずゴールしてしまいます。

とはいえ、走っている時間が短いから楽というわけではなく、私もさまざまなステアクライミングレースに出てきましたが、苦しさは過去のどの大会よりも大きく、ゴール後はまともに立つことができないくらい追い込まれました。ただ、これこそが太郎坊チャレンジの魅力です。

自分が作り出した「限界」という幻想を突き破って、その先の領域に足を踏み入れる。そういう体験はフルマラソンではなかなかできません。むしろフルマラソンでは「限界」を越えないように走るわけで、同じ「走る」でも、太郎坊チャレンジはある意味で、フルマラソンと対極にあります。

苦しいけど「もっとやれたはず」と感じる

大会当日の天気予報はあいにくの雨。事前に大会側が用意した参加者のLINEチャットでは、雨の予報を残念がる声がいくつかありました。屋外のレースですので、雨が降ると足元が滑りやすくなりますし、何よりも階段を上がった先からの見える景色が晴れと雨ではまったく異なります。

ところが私が太郎坊宮駅を下車したときには、真夏を思わせるような太陽の陽射し。喜んだのもつかの間のことで、あっという間に上空に雲がかかり、降ったり止んだりを繰り返しながら、最終的にはかなりの土砂降りに。もっともコース上は緑の屋根で覆われているのもあって、走っているときにはそこまで大きく雨の影響はありませんでした。

一般部門は3人1組が60秒ごとにスタートするので、階段での追い抜きがほとんどないというのも良かったのかもしれません。濡れた階段で追い抜きをしようとすると、どうしても力が入って足が滑りやすくなりますが、同じ組内でもスタート直後にバラけるので、少なくとも私は危険を感じることもありませんでした。

私は後半に失速することを予想して、スタート直後は速さよりもリズムよく上がっていくことを心掛けました。それが功を奏したのか、真ん中を過ぎたところまではリズムよく走れていたのですが、そこからは経験したことのない苦痛が待っていました。

前半は1段飛ばしで軽々走っていたのに、真ん中を過ぎたあたりで足が急に上がらなくなります。そこからは手すりを掴みながら気持ちだけで上がろうとするのですが、気持ちだけ前に進んでいるのに足が拒否します。でも、ステアクライミングの世界では、そこで頑張れるかどうかが結果を大きく変えることを私は知っています。

だからゴールが視界に入った残り60段くらいのところから、一気にラストスパートしようとしたのですが、3歩目で見事に失速。気持ちで何とかなるほどの筋力は残っておらず、自分の足なのにまったくコントロールができない状態にまで追い込まれていました。

このままでは転んでしまうという恐怖心から、必死に手すりを掴んで歩き出しましたが、倒れそうになりながらゴール。こんなに苦しんだのにタイムは1分51秒。トップの選手は50秒でゴールしているため、1分以上の差をつけられたことになります。

オールアウトできた気持ちよさと、トップレベルの選手とは比較にならないほどの結果が入り混じります。これ以上ないというくらい苦しんだのに、「もっとできたのでは」という気持ちが湧いてきて、ゴールして数分もしないうちに「来年はもっといいタイムを出せるように」なんて考え始めていました。

第1回大会らしさが溢れていた大会

レースの参加者には地元の人が多く、参加者同士の「ご近所さんじゃないですか」なんて会話も聞こえてきました。太郎坊宮は遠足などで何度も訪れているという人も多く、普段からトレーニングで使っているという人もいました。ただ、レースとなると今回が初めてのこと。

どれくらいのタイムになるのか、どうペース配分すればいいのかなど、やってみないとわからない状態。そして大会運営もそれは同じで、試行錯誤しながらも「やってみないとわからない」となったことが多々あったことかと思います。気になったのは、全体的にアナウンスが足りていなかったこと。

「受付場所はどこですか?」という質問を何度かされましたし、ゴールしたあとの動線を間違って参加賞のお守りを受け取らずにスタートエリアに戻ってきた人もいたようです。とはいえ、そういうことは実際に大会をしてみないとわからないことで、第1回大会あるあるのひとつです。

他にも第1回大会らしいなと感じることがいくつかありましたが、そういう部分は大会にとっては「伸びしろ」でしかありません。参加者が「次はもっと」と感じたのと同じように、大会側も「次はもっと」となっているはずですし、そこは今後に期待しています。

大人気の東京マラソンだって最初から完璧だったわけではありません。そういう意味では、太郎坊チャレンジもこれからどんどん人気が出てきて参加するのが難しい大会になるかもしれません。少なくとも、今回参加して悔しい思いをした人は、必ずここに戻ってくるわけですから。

マラソンにはない苦しさを楽しめる大会

私も走り終えてからずっと「どうすればもっといいタイムで走れるか」ばかり考えています。やはり悔しさが大きかったのだと思います。この大会に備えての準備をしたわけでもなく、379段を甘く考えていたのもあり、だからこそ大きな後悔が残っています。

この悔しさをはらすには、またここに戻ってくるしかありません。第2回大会が開催されるかどうかはまだわかりませんが、こんな魅力的な大会が1回の開催で終わってしまうなんてことは考えられませんし、必ず開催されると信じています。

歴史ある神社の参道で自分のすべてを出し切る。太郎坊チャレンジがなければ、そんな経験をすることはありませんでした。最近になって個人的に滋賀県ブームがきているのですが、それも太郎坊チャレンジがひとつのきっかけになっています。

まだ滋賀県に来たことがないという人も、ステアクライミングレースに出たこともないという人も、第2回目となる太郎坊チャレンジの開催が決定したら、ぜひ挑戦してみてください。きっと、これまで経験したことのない満足感に包まれるはずです。そして、きっと私のように階段を走ることの奥深さにハマってしまうはずです。

太郎坊チャレンジ:https://tarobo-challenge.com

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次