日本一早いマラソンレポート「東京マラソン2018」

会心の出来。東京マラソンの関係者はそう感じたことでしょう。おそらく他のマラソン大会も、しばらくは「東京マラソンを目指す」というようなことを言えなくなるくらい、東京マラソン2018は完成度の高い大会でした。

設楽悠太選手によって日本記録も更新され、天候にも恵まれました。タイムに関しては、以前から高速コースと言われていましたので、日本記録や2時間3分台などは時間の問題ではありました。

序盤は緩やかな下りが続き、その後はほぼフラットです。練習不足のランナーや、経験の足りていないランナーたちは、この前半の坂道でオーバーペースになって潰れますが、トップアスリートにしてみれば、力を温存できます。

先頭のランナーがスタートして、最終のランナーがスタートラインを抜けるまで約20分。3万人以上が走るとは思えないほどスムーズです。コース上には相変わらず、脱ぎ捨てられたウェアやレインコートなどが散乱していましたが、東京マラソンも手を打っていないわけではありません。

今年は、スタート前やEXPOなどで古着を回収して、それをチャリティに利用するという取り組みが行われました。残念なことは、この古着回収が思った以上にランナーに伝わってなかったことです。

さらに、スタート時の気温が低かったこともあり、多くのランナーが古着ではなく、ビニール製の簡易ポンチョを着て待機していました。そしてそれらを足元に捨てている人もいます。これはずっと変わらない光景です。

それでも、古着の回収BOXは大量のウェアであふれかえっていました。この取り組みが定着すれば、ランナーの多くが着なくなったウェアを着込んで、スタート前に寄付することができます。もちろん、まだ着るつもりのウェアを寄付する必要はありませんが。

いずれにしても、東京マラソンとしてはスタート時のゴミ問題に対しては、一つの方向性を示しました。来年以降はもっと改善されるのは間違いありません。

気になったのは、セキュリティの高さです。「安全のため」という錦の御旗を立てられると、何も言えなくなるのですが、あれほどの厳重なセキュリティが本当に必要なのかというのは、議論を続けなくてはいけません。

ランナーはレース用のジェルなどを必要なだけ持つことができませんし、自分でドリンクを持って走ることもできません。そこまでしないと安全を確保できないという現実があるのなら、それをもっとアナウンスしてもらいたいところです。

スタートエリアというのが、テロなどがあったときに最も被害が大きくなる場所なのは間違いありません。蟻の1匹でも通したくない、絶対にトラブルを起こさせない。そういうスタンスは重要ですが、アナウンス不足によって「やりすぎ」という声が聞こえ始めています。

とはいえ、これは2020年のオリンピックを見据えてのシミュレーションでもあるのでしょうから、オリンピック以降はもう少し簡易化される可能性がありますし、そうあってほしいと思います。

コースは昨年と同じですが、今年は気温が低いにも関わらず、昨年以上の観客数だったように感じます。どこに行っても沿道には人がいます。ニューヨークシティマラソンも途切れない応援と言われていますが、東京マラソンも応援の数だけなら負けていません。

もっと沿道から声が出ると盛り上がりますが、これは東京の人たちの気質もあるのでしょう。西日本へ行くほど沿道での声が大きくなる傾向にあり、東京は知り合い以外に声をかける人は少数派です。

それでも、走っている人にしてみればこんなに気持ちのいいことはないでしょう。数え切れないくらいの人が沿道にいます。もしかしたら、平昌冬季オリンピックで「応援する」気持ちよさを感じた人が増えた結果なのかもしれません。

来年は平昌冬季オリンピックに刺激を受け、東京マラソンを観に来て「来年は出てみたいな」と思った人たちのエントリーが増えるでしょうから、今年以上の倍率になるかもしれません。おそらくその流れは2021年まで続くのでしょう。

今回、コースのいたるところで感じたのは、警備をする人たちの物腰の柔らかさです。決して上からモノを言うことはありません。何人かはイライラの限界を超えて、ちょっと声のトーンがよくないことがありましたが、少しすると思い直したように、落ち着いた声で注意を促していました。

これは事前に徹底されていたのでしょう。例えば、マラソンに関係ない人は道路を渡れないことに対して怒りをぶつけてきます。それに対して、冷たく対処するのではなく、柳のようなしなやかさで対応していますので、相手も怒り続けることができません。

こういう見えにくい場所を徹底しているところが、東京マラソンのすごさでもあります。警備会社に任せておしまいというのではなく、どのような姿勢で警備をしてもらいたいのか、長い時間をかけて話し合いをしたのでしょう。

そういう細かいところまで妥協せずに、そして成功者であることに満足せずに、常に改善を続けている。これが東京マラソンが日本で唯一無二の存在になっている理由のひとつです。

ただし、ゴール地点に関しては、本当にあれでいいのかは難しいところです。最終のカーブを曲がったあとの花道には、ほとんど応援者がいません。基本的には立入禁止になっていて、選手が見える場所も立ち止まるのは禁止です。

ゴールシーンは見えなくなるようにカバーされています。それも「安全のため」と言いたいのは分かりますが、1車線離れたエリアには特別観戦エリアになっていて、あらかじめ抽選に当たった人やスポンサー関係者しか入れません。

1000人の募集でしたが、そこには100人も人がいません。昨年も同じことをしていました。昨年はもっと大々的な観戦エリアになっていて、ガラガラでしたので、それよりも見た目はいいのですし、応援ステージで大学生などが全力で声を出していましたので、活気はありました。

東京マラソンとしては、ゴールをなんとかしなくてはという想いはあるものの、安全を最優先すると、どうしても今のようなスタイルになってしまいます。おそらく、この部分に関しては来年以降も試行錯誤されるのでしょうが、少なくとも今年の大会で唯一残念な部分ではありました。

「ゴールを観たい」「ゴールはどこで観れるの?」そういう声があちこちで聞かれました。その声にどう応えるのか。来年の東京マラソンに大きな期待をしましょう。

重箱の隅をつつくようなことを付け加えてしまいましたが、東京マラソン2018はこの程度の不満しか出てこないくらい、完璧に近い開催でした。マラソン大会のひとつの完成形がここにありました。

これを受けて全国のマラソン大会はどう動くのか。どう反応するか楽しみなところです。できることなら、ここからさらに各地のマラソン大会が活性化することを期待しています。

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