第1回大会に駐車場が大渋滞を起こして、5000人以上のランナーがスタート地点に立つことができなかった富士山マラソン。その印象があまりにも強すぎるため、シリアスランナーが敬遠しがちな大会でもあります。
第2回大会以降はそのような大きなトラブルは起きていませんが、首都圏からはアクセスがしづらいというのは変わりませんので、国内のランナーを集客するという部分では苦しんでいるように感じています。ところが日本人ランナーの数は伸び悩んでいても、外国人ランナーの参加者数は年々増えているように感じます。
実際に、今年の富士山マラソンの会場に足を運びましたが、驚くほどの数の台湾人ランナーが富士山マラソンにエントリーしています。台湾人ランナーが目立ちましたが、それに負けないくらいタイ人のランナーも見かけました。もちろん欧米からの参加者もいます。
富士山マラソンはいつのまにか、国際色豊かな大会になっていました。ここではそんな富士山マラソン2019について、現地で感じたことなどをレポートします。
絶景×日本屈指の難コースが魅力
富士山が見えて、紅葉と湖が美しい。
これだけで、ランナーにとっては大きな魅力になります。特に外国人ランナーへのアピールとしてはこれ以上ない武器になっています。ただし、富士山が見えるかどうかは天気次第ですし、紅葉も年によってはすでに終わっていることもあります。
今年はというと、1週間前から雨予報でスタート前には小雨になり、号砲に合わせるかのように止んだものの、これでは富士山は期待できません。わざわざ海外からやってきたランナーに対して、少し申し訳ない気持ちになりましたが、こればっかりはマラソンの神様の気分次第ですのでどうしようもありません。
ところがほとんどのランナーが河口湖大橋を渡りきったときには、富士山の上部が顔を出します。それもいつもよりも神々しい光をまとって。
これで準備は整いました。あとはランナーに楽しんでもらうだけ。
しかしながら、富士山マラソンは国内屈指の難コースを持つ大会です。湖畔を走るとはいえ小さなアップダウンが続き、それだけでなく21キロ過ぎからは高低差800メートル近い、壁のような坂道がランナーを待っています。この上り坂は復路の下り坂となり、ランナーの筋力を奪っていきます。
さらに富士山マラソンでは大会会場周辺以外の場所で、沿道の声援がほとんどありません。河口湖と西湖の周りを走りますが、河口湖大橋を渡ってしまうとアクセスするのが難しく応援者はほとんどいなくなります。
マラソンは孤独なスポーツです。なので、声援がなくても自分の力でフィニッシュ地点に向けて1歩を積み重ねるのが本来の姿です。でも、すでに多くの市民ランナーは声援の力を知ってしまったため、声援のない孤独な戦いに耐えられなくなり、つい歩いてしまったり、立ち止まったりします。
今回は30キロ地点まで逆走しながら取材をしましたが、他のマラソン大会よりも歩いている人が目立ちました。6時間の制限時間に間に合ったランナーでも、後半はひたすら歩いてゴールした人がそれなりにいます。
天気次第とはいえ驚くほどの絶景がそこにはあり、一方でランナーを拒絶するかのような難コースになっている。アメとムチの関係ではないですが、このバランスが絶妙でリピーターになっている人も多いかもしれません。
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運営は改善の余地がある
富士山やそこにしかない秋の景色が魅力の大会ではありますが、決して走りやすい大会ではありません。たいかい運営そのものも疑問を感じるような点がいくつかありました。その中でも気になったのが下記の4点です。
- 給水所の水が足りない
- 荷物預けの袋に貼るシールに自分で番号を書く
- シャトルバス乗り場がわかりづらい
- シャトルバスの終了時間が早過ぎる
それぞれの問題について説明していきます。
給水所の水が足りない
富士山マラソンとしては8回目の開催で、河口湖マラソン時代から数えると40年以上の歴史がある大会です。なのに、給水所で水が足りなくなるというのは考えられないことです。水の有無はランナーにとっては死活問題です。
確かに気温が高くなりましたが、想定外の気温というわけではありません。ランナーは正しく給水を受けるために参加費を払っています。「思ったよりもみんなが給水をして水が足りなくなった」というのでは、誰ひとりとして納得してくれません。
荷物預けの袋に貼るシールに自分で番号を書く
荷物預けの袋には通常、自分のゼッケン番号がプリントされたシールを貼りますが、そのシールには何も書いてなく、自分で記入しなくてはいけません。スタート前は雨が降っており、油性マジックでもシールに文字をうまく書けません。
なぜこのようなことになっているかわかりません。コストダウンにしても1人あたり数十円にもならないはずです。きちんとゼッケンが印刷されたシールを個別に用意してあげてもらいたいところです。外国人ランナーが混乱しないようにするためにも。
シャトルバス乗り場がわかりづらい
駐車場からのシャトルバスの到着地点は大会会場から徒歩20分以上も離れた場所にあり、戻りはそこまで歩かなくてはいけません、土地勘のある人ならそこに戻ってくるのは簡単ですが、そうでないなら「ここに戻ってこれるか不安」という気持ちになります。
バスに乗ったランナーには小さな紙が配られ、そこにどこから乗ればいいのかは記載されています。でもそれがどこなのか地元の人でないとわかりません。せっかく紙を配るわけですから、簡単な案内図を掲載すれば済むと思うのですが、この点は少しもったいなさを感じます。
シャトルバスの終了時間が早過ぎる
最も疑問に感じたのは、戻りのシャトルバスは15時30分で終了となっていたことです。マラソンの終了が15時ですので、ギリギリに完走した人は、ゴールしてから30分以内にバス乗り場に移動しなくてはいけません。
- ゴールしてから荷物を受け取るのに20分かかる
- 大会会場からバス乗り場まで25分かかる
物理的に間に合いません。実際には現場の判断なのか16時までシャトルバスを出してくれましたが、それに間に合わなかった人が何十人もいました。手荷物預かりの閉鎖時刻を16時にしているわけですから、シャトルバスは16時30分までとすべきではないかと感じました。
「ものすごく良い」と「ものすごく悪い」が共存している大会
本当に些細なことなのですが、こういう小さな部分がランナーの満足度に影響します。すべての参加者を満足させることはできませんが、もう少しだけランナーに寄り添ってもらえれば、もっと注目される大会になるだけのポテンシャルがあるのが富士山マラソンです。
ここで私が感じた疑問以外にも、きっと参加者ごとに「こうしたらいいのにな」の声があるとは思います。RUNNETにはすでに改善の余地があるといったニュアンスの評価がいくつも出ています。それらをきちんと分析して修正できれば、富士山マラソンは間違いなく日本を代表する大会になります。
ただ、変わらないだろうという諦めもあります。きっとそれが富士山マラソンのカラーなのでしょう。「ものすごく良い」と「ものすごく悪い」が共存している不思議な大会が富士山マラソンです。それを面白いと思えるか、イライラしてしまうか。それとも何も感じないか。
ランナーによって受け取り方は違うと思います。だから、これから参加しようと考えている人は、そのような2面性のある大会があることは知っておきましょう。レポートとしてお伝えできるのはそれだけです。あとは自分自身で体験して判断してください。