あべのハルカス1610段の非常階段を駆け上がるSJC 第2戦・大阪大会が、大阪天王寺にて開催されました。ハルカススカイランから数えて、今回で6回目となりますが、着実に秋の大阪の風物詩へとなりつつあることを強く感じる大会となりました。
今回も実際に大会に参加して、その魅力を存分に体感してきましたので、余すことなくレポートしていきます。以前走っていたという人も、まだ走ったことがないという人も「来年は走ってみようかな」につながることを期待しています。
世界選手権も同時開催でこれまで以上にハイレベルに
昨年はハルカススカイランからVJCに大会名が変わり、1年を通してのサーキットレースへと進化しての開催。そして今年はVJCがSJCになり、ハルカススカイラン時代からの参加者にとっては、どうも腰が落ち着かない感じでの開催になりました。
さらに今年は世界選手権も同時開催されており、世界中からトップアスリートが集結。ただし、トップアスリートたちが競い合う大会でもあることがまだいまいち周知されておらず、階段マラソンを世の中が日本に定着するにはもう少し時間がかかるように感じた大会でもありました。
ただし、大会運営側にしてみればそれは織り込み済みのことで、国内サーキットにすることで日本人選手の底上げを行い、世界で活躍する選手を増やしていく。そして国内での知名度も上がっていくことで大会全体が盛り上がっていく。そのためにはある程度の時間が必要で、今はその過渡期にあるのかもしれません。
とはいえさすが世界選手権で、繰り広げられるレースのレベルはとても高く、会場に設置された大型ビジョンに映し出されるトップレベルの選手を目で追った参加者にとて、大きな刺激となる大会となったはずです。そしてそのハイレベルな争いの中で日本人である渡辺良治選手が優勝したということも、希望を感じさせるものでした。
かつて、ハルカススカイランがワールドサーキットに組み込まれていたときに、男子は世界の上位に歯が立たない状態にありましたが、今年は男女ともに日本人が優勝したことで、SJCのエリートランナーも一般のランナーも世界への扉が開かれていることを強く感じたはずです。
階段マラソンは日本人が世界のトップに入り込める。それはまだ、この種目が成熟していないからとも言えますが、だからこそ多くの人にチャンスがあります。今回一般部門で参加した選手の中から、数年後に世界チャンピオンが生まれる可能性がある。そこにSJCの可能性や魅力のひとつになります。
準備してき者だけがたどり着ける領域
SJCは世界に直結する大会ではありますが、一般部門ではほとんどの参加者がそのレベルにありません。だとしたら、どこに魅力があるのかというと、1年に1回自分の走力を確認する場にできるというのがSJC最大の魅力だと今大会を走ってみて強く感じました。
私は個人的な事情で2023年はほとんど練習ができず、練習量はこれまでの1/5以下という状況になり、3月から7月まではほとんど走っていませんでした。その後も思うように練習ができず、SJC 第2戦 大阪大会の当日を迎えました。
結果は言うまでもなく惨敗。昨年のタイムよりも2分以上も多くかかってしまいました。昨年以上に息切れしていたのにもかかわらず。要するにここでは自分の走力がむき出しになってしまいます。フルマラソンでもそういうところがありますが、距離が長いので練習不足をごまかせることもあります。
ところがあべのハルカスの1610段の階段を駆け上がるSJC 第2戦 大阪大会では、準備ができていない者を跳ね返すようなところがあり、どうあがいたとしても準備不足では結果を残せません。逆に言えば準備さえしていれば、きちんと結果が残ります。
そして、準備をして自分を超えていった者だけがたどり着ける領域があります。私もこれまで何度かその領域に片足を踏み込みましたが、今回はそのだいぶ手前で弾き返され、悔しさを感じることすらできませんでした。
ただ、悪い結果がすぐにポジティブなエネルギーに変わるのも階段マラソンの面白いところです。「来年はもっと走れる自分になる」そう強く決意するまでにそれほど時間はかかりませんでした。来年は失った2分を埋めることが目標。いや、過去の成績を越えていくことを目標に1年を過ごすつもりです。
安定した運営で大きな混乱もなく終了
今回で6回目の開催ということもあり、運営はさすがに慣れたもの。ハルカススカイランの頃に計測ができていなかったりするなど、ドタバタしたこともありますが、大会としての枠がしっかりと固まったこともあって、外から見るだけなら、大きな混乱もなく大会を終了できていたように感じます。
実際には中でさまざまな調整が行われており、運営も簡単ではなかったかと思います。それでも自分で階段を走るだけの大会ではなく、大会そのものをエンターテイメントとして楽しむという考え方が定着しつつあります。
階段マラソンは、レース展開をすべて見せるのが難しい競技。それをいかにしてエンターテイメントにするかというところに試行錯誤している形跡があり、「魅せる」という部分では、きっと5年後10年後にはさらに進化していて、会場の大型ビジョン前にもっと多くの人が群がることになるはずです。
実際に世界選手権やエリートの部の表彰式のあと、4名のゲストランナーが階段を駆け上がったのですが、多くの方がゲストランナーが映し出される大型ビジョンに釘付けになっていました。階段マラソンは間違いなくエンターテイメントになる競技。
うまく魅せる技術が確立できれば、YouTubeなどの動画配信でも人気コンテンツになります。そうなるまでにはまだ時間がかかるとは思いますし、そのためにはエリートだけでなく一般のランナーにも満足して帰ってもらう必要があります。
現時点ではまだ、自分のレースのためだけに参加している人も多く、その人たちにエリートの部門にももっと興味を示してもらう。そのためには、これまでと違ったアプローチが必要になるのかもしれません。どうアプローチすればいいのかについてのアイデアはないので、無責任な発言にはなりますが。
フルマラソンと天秤にかけられる今後に注目
秋の大阪の風物詩へとなりつつあるSJCの大阪大会ですが、これから参加者や競技人口を増やしていくために悩ましいのが、同日に大規模なマラソン大会が開催されることにあります。今年は神戸マラソンと同日になっており、これまで階段マラソンを走っていた人も、そちらに流れてしまった可能性があります。
フルマラソンと階段マラソンを天秤にかけたとき、多くのランナーにとってフルマラソンのほうが魅力的です。階段マラソンは注目度も低く、競技としてもマイナー。それを覆すだけの魅力やポテンシャルがあるものの、フルマラソンにランナーと取られるというのが現在地になります。
階段マラソンがもっと知名度を上げるには、もっと全国各地で大会が開催される必要があるのかもしれません。それも毎月のように全国のどこかで開催される。おそらくSJCというサーキット形式にしたのも、そのような未来を描いているはずです。
「主戦場は階段」そう宣言する人が増える環境を作り出すこと。フルマラソンではなく階段マラソンを選ぶ人が増えてくること。そうなったときに、階段マラソンは大きなトレンドになり、これまで以上の盛り上がりを見せるはずです。
それが5年後なのか10年後なのかはわかりませんが、このまま継続していけばきっと流れがやってきます。着実にその方向に向かっていることを今大会で感じましたし、いつブレイクしてもおかしくない環境は整いつつあります。
安定した運営が行われた今大会ですが、ここが到着点ではなくまだ通過点。もっと知名度が上がって「あべのハルカスの階段を駆け上がる」と言っても、誰も驚かなくなる日が来ることを期待しています(それはそれでちょっと寂しくはありますが)。