日本一早いマラソンレポート「北海道マラソン2023」

おそらく私が国内で走ったり応援したりした中で、今年の北海道マラソンはもっとも過酷なマラソン大会になりました。スタートの気温が30℃。そしてそこから気温も湿度も上がっていき、完全に脱水状態になったところに後半の雷雨。

ただ道民にとってはレースだけでなく、レースコンディションを整えるのも難しいレースとなり、早い段階でリタイアする人や、要救護になる人が続出するサバイバルレースに。今回はそんな北海道マラソン2023についてレポートしていきます。

目次

コンディション調整ができない1週間

北海道は涼しいというイメージがあるかもしれませんが、年々その定説が崩れ、気温が30℃を超える日も珍しくなくなってきました。それでもまだ本州ほど暑くはなかったのですが、今年の北海道マラソン直前1週間で最高気温が36℃オーバーが2回もありました。

別に涼しい時間に走ればいいじゃないと思うかもしれませんが、道民にとっての問題はそこではありません(暑さに弱いという人も少なくないのですが)。北海道の多くの住宅にはエアコンがないんです。ちょっと古いデータですが10年前で北海道のクーラー普及率は25%だそうです。

もちろん本州と同じで、いま購入しても設置するのが1〜2ヶ月後とかいう状況で、室温が30℃を超えるような環境で寝ることになります。仮にエアコンがあったとしても、冷たく乾いた空気に慣れないので体調をくずすことも。

そんな状態でのフルマラソンですので、スタートラインに立ったときにベストコンディションでなかったランナーは例年よりもはるかに多かったはずです。北海道マラソン当日の天気予報が雨で、最高気温がそれほど上がらないとなっていましたが、天気予報の精度が低いのも北海道。

とにかく始まる前から厳しいレースになることが予想されていたわけです。ちなみに1日違うと最高気温が36℃の中を走ることなっていました。十分にありえたことで、大会が中止になってもおかしくなかったのですが、結果的に過去に例を見ないレベルの過酷な大会になりました。

北海道マラソン2023でいったい何が起きたのか、何が過酷だったのかについて実際に現地で応援しながら感じたことをレポートしていきます。これから最高気温が高い大会に出る予定という人は、ぜひ参考にしてください。

想像を絶する環境の中での序盤

北海道マラソンのスタート時間は第1ウェーブが8時30分、第2ウェーブが8時45分と少し早めです。北海道といえどもやはり夏のマラソンということもあり、涼しい時間に走り出したいということなのでしょう。ところがこの時間ですでに気温計は30℃を表示しています。

30℃はギリギリマラソンが成立するかどうかという気温。当然ここから気温が上がっていくわけです。前日の天気予報では朝から雨となっていたので、カッパを買っていた人もいたのですが、これからしばらく雨は期待できそうにない青空。

そうは言っても号砲は予定通りなるわけで、戸惑いながらも2万人のランナーが飛び出していきます。ここでの判断がレースの結果に大きく影響するとも知らずに。スタートを見送ってから10km地点の方へ向かったのですが、エイドがすでに大パニック状態です。

とにかく水が間に合わない。まだ第1ブロックの選手が通過している段階なのにスポンジも足りなくなりそうでした。ただ水は後ろ側のテーブルに余裕があったので、リーダークラスの人が「後方にもあります」と声掛けをすれば混乱しなかったと思うのですが。

そして、この10km地点付近ですでに歩き始める人や、コースを離れてリタイアする人が出てきました。過去の北海道マラソンではあまり見たことのない光景。後半になってコースの単調さに歩く人がいましたが、今回はサブ4クラスのランナーが10kmで歩き、Aゼッケンの人がリタイアしているのです。

この時点で気温は30℃を大きく上回っていたかもしれません。少なくとも路面温度は適温からは程遠く、スタートで飛び出したランナーはすでに脱水状態になっていたかもしれません。スタートで我慢できた人は流石にまだ問題なく走れていましたが。

あちこちで要救護者がでて救護チームが不足する事態に

15km手前くらいからは、コース脇に座り込む人が増えてきました。走力があまり高くないように感じる人が中心でしたが、それでも数百メートルおきに誰かが座り込んでいます。私も応援とはいえ長い距離は難しそうだったので15km手前で折り返すことに。

このとき折り返してきていたランナーはAゼッケンの早い方。サブ3よりもはるかに速いレベルのランナーが通過していきましたが、さすがにこのレベルになると暑さ対策もしっかりしていて、ペース配分もできていたのでしょう。

ただ、ゼッケンナンバーが1桁のランナーが2人歩道を歩いていました。きっとリタイアを選んだ招待選手なのでしょう。そのレベルの人でもリタイアを選ぶくらいの環境で、地獄絵図が始まるのはこのあと北海道大学構内に入ってからでした。

1人のランナーが全身を痙攣させて倒れ込んでしまったのですが、救護が前後におらず、その場にいた人たちで声掛けとできる範囲での救護を行うことに。そのあと自転車で救護に来た人に話を聞いたのですが、みんなどこかで救護している状態でまったく手が回らないとのこと。

倒れた方はなんとか持ち直して、担架で救護テントに運ばれていきましたが、救護しているときに少し後ろで走れなくなった人が出たとのこと。そして、担架を見送った後、さらに進むと1人の台湾人ランナーが座り込んでいました。

この方も最終的に車椅子で救護テントに運ばれていき、そしてさらにその先で倒れている人がいて、すでに救護バイクの方が手当をしていましたが、コース上から外に出すために少しお手伝いをしました。こんなことがあちこちで起こっていたわけです。

これもマラソンと考えるかそれとも開催日をずらすか

先に伝えておきますが、誰が悪いというわけではありません。運営の準備不足を責めるのは酷ですし、ランナーの準備不足、戦略ミスを咎めるのも流石にこのコンディションでは無理があります。でも現実としてかなり危険なレースになりました。

私のラン仲間が走っていたのですが、無事帰ってきたことだけで安心しています。そしてエントリーしていなくてよかったと心から思いました。こんなコンディションの大会を走る意味は何もありません。エントリーしていてもDNSを選ぶことが唯一の正解だったと思います。

もちろん完走できた人のほうが多いので、それは言い過ぎだと思われるかもしれませんが、完走できた人もかなり抑えて走っていなければ、かなりのダメージが残っているはずです。もしかしたら秋マラソンになってもコンディションが戻らないかもしれません。

ただ、これもマラソンです。自然環境の中を走るわけで過酷な競技なんです。アメリカには気温50℃の中を走るマラソン大会もあります。でも、ほとんどのランナーにとってマラソン大会は喜びであり、苦行ではないはずです。日頃のトレーニングの成果を確認する場なわけです。

もちろんチャレンジの場でもありますが、今回はやはりコンディションが悪すぎました。さらにレース後半には雷雨になっており、落雷のリスクもありました。コース上で落雷があった場合、マラソン大会はどうなるのでしょう。

悩ましいのは北海道マラソンが夏の終わりの風物詩になっているということ。こういう状態があと2年続いたら開催月を7月か9月にずらす必要が出てくるかもしれません。それはそれで8月末で定着しているのを変えることになり簡単な判断ではないのでしょうが。

いずれにしても、今回の参加者はとんでもない経験を手にしたわけで、そこはちょっとだけ羨ましいなと。外から見える景色と中から見る景色は違いますからね。でも、ランナーはそろそろ気温30℃を超える日のマラソンについて、何らかの対策を考えなくてはいけない段階にやってきているのかもしれません。

そして、潔くDNSもしくはDNFできるランナーになること。自分自身を守りたいのであればそれくらいの気持ちは必要です。マラソンを愛する者として、あんなにも人がバタバタ倒れるのは2度と見たくありませんので。

北海道マラソン:https://hokkaido-marathon.com

▼北海道マラソン大会情報についてはこちらをチェック

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